2021.12.21

【抄録】「第5回 日経スマートワーク経営調査」結果解説セミナー

日経スマートワーク経営調査2021の結果解説セミナーをオンラインで開催した。日経リサーチによる調査結果解説、先進企業の取り組み事例とパネルディスカッションを実施した。コロナ禍における施策と取り組みについて活発な議論が行われた。

新型コロナ感染症による新しい働き方がスマートワークを後押し

調査は2021年5月から7月にかけて実施した。今回の結果の特徴について日経リサーチ コンテンツ事業本部編集企画部の堀江晶子氏が報告した。

「回答企業数が807社と前回から大幅に増加した。3年連続回答企業は500社、また総合ランキングで偏差値70以上の5つ星企業は21社となった。社員数が500~1000人未満あるいは500人未満の企業でも3.5~4つ星を獲得している企業が一定数いる」と述べた。

時系列の変化については、「女性役員がいる企業が着実に増加、社内の女性比率が少ない企業でも役員登用が進んでいる。8割以上が社外取締役だが、社内からの登用は段階的に進んでいくだろう。定年延長導入企業は、19.7%に増加した」。また「ミドル・シニア世代の正社員は増加傾向にあり、学び直しやスキル開発が重要になっている。男性の育児休暇については、取得者のいる企業が増え、1カ月以上の中期休暇取得者の増加が目立つ。テレワークなど働き方の変化が後押ししたのだろう。副業についてもコロナ禍を機に容認の兆しが見えている。テレワークを一部の社員に限らず、より幅広い社員に取り入れている企業が増えている」という。

自由記述回答からは、「イノベーションや市場開拓を進める上での課題は自社のフェーズにより異なり、取り組みがまだ進んでいない企業は『日々の業務に追われて余剰時間がない』を挙げる企業が多いのに対し、取り組みが進んでくると『新技術への投資の素早い意思決定が難しい』などを挙げる企業が増える」と指摘する。

全体として、「テレワークに関しては一時的な対応にとどまった企業と恒常的な制度として定着しつつある企業に分かれる。今後はテレワークでも従来に劣らないコミュニケーションを維持し、いかに生産性向上につなげられるかが鍵になるだろう。新たなテクノロジーの導入やイノベーションを推進する制度は、一般社員も含めて裾野を拡大する段階にきた。学び直しや自律的キャリア形成支援についても、会社と従業員の双方が価値を感じられる制度へと進化させることが重要だろう」とまとめた。

有事に対応できる新しい働き方を目指す:東京海上日動火災保険

コロナ禍におけるスマートワークの先進事例として、東京海上日動火災保険人事企画部長の守山聡氏より取り組みが紹介された。

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東京海上日動火災保険 守山氏

「東京海上日動火災保険は、1879年に日本初の保険会社として創業した。現在、グローバル展開により46の国と地域に拠点を持つ。

創業以来、『お客様や地域社会の“いざ”をお支えし、お守りすること』を不変のパーパス(存在意義)として、社会課題の解決に貢献してきた。コロナ禍や自然災害などに遭遇したお客様や地域社会の“いざ”を支え、守るためにデジタル活用を推進。同時に社員が最適な働き方を実践できる環境の整備に力を入れている。

コロナ禍において事故対応が非対面でできるよう、オンラインでの事故受付やチャット機能を持つツールを導入し、サービスの品質を保ち、生産性を向上している。

また、従来は紙の書類が多かったプロセスを見直し、画像共有システムを活用。自然災害などで住宅に被害を受けた場合、遠隔査定システムを使用し、感染リスクを避けながら査定ができる。

自動車保険では一連の契約手続きをオンラインでできるように変革。デジタルを徹底的に活用することで、お客様に利便性や快適性を感じていただき、また、社員の社内業務の効率化にもつながった。

社員の最適な働き方の実践としては、コロナ以前から働き方の自由度を高めることに取り組んできており、コロナ禍を契機に一気に進めることができた。

現在は、働く時間と場所をより柔軟に選べる。

また、社内副業制度をスタートした。これは地方の支店の社員が自分の仕事をしながら、本店のプロジェクトに参画できるもの。既に50を超えるプロジェクトに約400名の社員が加わっている。また、様々なテーマから必要な学びを社員自ら選択できる学びのカフェテリアを提供し、好評だ。

健康経営の面では、全国46拠点に産業保健スタッフを配置。感染症や個々の健康課題に細かく対応をして社員を守り、事業継続を図っている。社員が心身ともに健康な状態で生き生きと働くことが、地域や社会への貢献につながると考えており、より良い環境へと取り組んでいきたい」

フレキシブル&ハイブリッドワークへ:エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ

2件目の先進事例として、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ執行役員ヒューマンリソース部長の山本恭子氏から、同社のリモートワーク実践と効果が紹介された。

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エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ 山本氏

「2002年からeワークと呼ぶトライアルを開始した。以来、セキュリティとの両立に苦心し、2018年に自社開発したセキュアドPCの導入によって、安全なリモートワーク環境が実現した。コロナ感染症が拡大した2020年2月には派遣スタッフを含めた全面的なリモートワークが実現し、現在、80%以上の従業員がリモートワークをしている。年に1回実施しているES(従業員満足度)調査では、生産性、連帯感がポジティブ評価となり、過去5年で最高の結果となった。特に女性のポジティブ評価が大きく伸びた」。

同社では、全従業員がリモートワークネイティブの働き手となることを目指し、4つの軸で推進してきた。「コミュニケーションやマネジメントの領域、制度やルールの整備、オフィスのあり方の見直し、DX・データ活用が4つの軸である。コミュニケーションやマネジメントについては、ノウハウの共有をドキュメント化している。『リモートワークハンドブック』には、オンライン会議の円滑な進め方など実践的な運用ルールが盛り込まれている。『オンボーディングハンドブック』は、新入社員や他の部署から異動してきた新メンバーが素早く組織になじみ、成果を出せるように実践する、受け入れメンバーのためのノウハウだ。感謝の気持ちを伝えるサンクスカードや、ちょっとした会話や立ち話ができるオンラインワークスペースNeWorkも活用している」と述べる。

DXの取り組みとして最初に着手したというペーパーレス化については、「コロナ以前は年間、23万件以上の帳票を作成していた。しかし、リモートワークの定着で2020年には前年比で6割弱まで削減できた。さらに削減するために2021年1月から電子化を強力に推進。社内文書・社外文書を分け、社内文書は電子サイン、社外文書では電子署名や電子印影を使うなどプロセスを見直した。ワークスタイル変革は、DXへの近道だと実感している」という。こうした自社のノウハウを顧客企業へソリューションとして提供している。

「コロナが終息した後の働き方を、フレキシブル&ハイブリッドワークとし、時間と場所を柔軟に使い、リアルとデジタルのハイブリッドで働くことを目指す」と語った。

パネルディスカッション:対面と非対面を両立するデジタル化を目指す

セミナー後半は、企業事例の発表者に加え、慶應義塾大学商学部の山本勲教授と学習院大学経済学部の滝澤美帆教授をパネリストに迎え、「新型コロナ禍におけるスマートワークの進展」をテーマにパネルディスカッションを実施した。コーディネーターは慶應義塾大学大学院商学研究科の鶴光太郎教授が担当した。

2社の取り組みのどこを評価するかの質問に対し、滝澤教授は「両社ともに先進的な取り組みを成果に結びつけていることが素晴らしい。新しい働き方に対応したデジタル対応やプロセス改善をした結果があらわれている。

 研究会ではスマートワーク調査の回答をデータ分析し、今後の働き方を検討してきた。顧客のニーズに対応しながら、データ活用を軸にコミュニケーションを促進することが重要だ。先進事例ではそれが結果につながっている」と回答し、「リモートワークによる新しい働き方を推進する中で、気を付けるべき点や課題は何か」と問いかけた。

守山氏は、「組織のコミュニケーションが劣化していないか、アウトプットの質が落ちていないかに留意する必要があるだろう」と答えた。山本氏は、「現在、感じている課題は、リモートワークで通勤が無くなった分、勤務時間が延びていることだ」と述べ、鶴教授からも「本人が気付かない間に、労働時間が延びているのは海外事例でも指摘されている。今後の課題だろう」と指摘があった。

山本教授の「今後、新しい働き方が継続、定着していくのかを聞きたい」との質問に対して、守山氏は「働く場所と時間を柔軟化することは、後戻りはしない。働く場所については、もう一歩、踏み込んでいきたい。場所の柔軟化はもちろんプラスの側面が多いが、一方で働く場所が常時自宅となることが社員や家族に負荷となることもある。場所の選択肢を増やす取り組みとして、例えばサテライトオフィスや会社の研修所の宿泊スペースの利用なども試行中だ」と答えた。山本氏は、「デジタルとリアルをハイブリットする方針は、もう元には戻らない。オフィスはコラボレーションしたり、アイデアを出したりする場所だと再定義した。スーパーフレックスで時間を分断できる働き方は、女性にとって働きやすい環境になっている。優れた人材を失わずに済む取り組みは、日本全体に広がるとよいと思う」と述べた。

最後に、鶴教授が「コロナ前からやるべきことを進めている2社の特長は取り組みが徹底していることだ。デジタル化、DX対応について多くの企業にとって参考になるだろう。非対面を考えられる限り工夫して進め、対面の場合にもすべきことを追求している点が印象的だった。

スマートワーク経営調査は、結果分析や先進事例を参考にするだけでなく、自社が何をすべきかを明らかにするベンチマークとして役立つ。今後も多くの企業に参加していただきたい」と締めくくった。

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