2020.12.15

【抄録】「第4回 日経スマートワーク経営調査」調査結果解説セミナーを開催

日本経済新聞社グループが提唱する企業経営のあり方「スマートワーク経営」。それは多様で柔軟な働き方の実現により、人材を最大限活用し、イノベーションを生み、新たな市場の開拓を続け、生産性など組織のパフォーマンスを最大化させることを目指す経営戦略だ。2020年12月、第4回となる調査結果を解説し、先進企業の事例を紹介するセミナーを開催した。有識者を含むパネルディスカッションでは健康経営やコロナへの取り組みなどを議論した。

コロナ禍のテレワークがテクノロジー活用を後押し

セミナーの冒頭では、日経リサーチ コンテンツ事業本部編集企画部の堀江晶子氏が「第4回 日経スマートワーク経営調査」の結果について報告した。

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日経リサーチの堀江氏

「コロナ禍にも関わらず昨年を上回る710社が参加、3年連続回答企業も400社を超えた。人材活用、イノベーション、市場開拓の力を縦串に、方針・計画とテクノロジーを横串として点数化して偏差値を計算。偏差値70以上である星5つを獲得した企業は22社、3年連続回答企業のうち2年前よりも総合ランクが上がった企業は103社にのぼる」とした。

調査結果の変化では、「女性役員を登用する企業が増加したが、社外取締役の登用が多く、社内から輩出できている企業はいまだ少数派。前段階である執行役員や部長クラスの女性は着実に増えており、来年度以降の推移に注目したい」と述べた。

労働環境の整備については、長時間労働や休暇取得率、過重労働の削減が進んだ。「定年延長や継続雇用の上限を65歳からさらに引き上げる動きも進んでいる。シニアの待遇面など雇用環境整備がポイントになるだろう。男性の育児休暇取得者がいる企業は着実に増加した。より多くの社員が取得できることが重要になる」。

また、「生産性の高い企業群と全体を比較すると、個々の事情に合わせた勤務時間の選択や時間単位の年休取得などで大きな差が見られた。働き手の多様化に合わせた柔軟な運用ができることが、今後の生産性向上の鍵になるとだろう」と解説した。

新しいテクノロジーの活用については、「評価の高い企業では一部の中核人材だけなく、幅広く社内でAIやビッグデータの活用に関する教育を実施し、裾野の拡大に力を入れている。これによりテクノロジーを活用した現場発の業務改善や商品開発が進むだろう」と述べた。

多様な働き方を認め、エンゲージメントを高めるための取り組み:第一三共

評価上位企業の事例として、第一三共から常務執行役員総務本部長 古田弘信氏より取り組みが紹介された。

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第一三共の古田氏

「第一三共は『世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する』をパーパスとしており、イノベーティブ医薬品としての新薬を中心に、ジェネリック医薬品、ワクチン、一般用医薬品を扱う。革新的医薬品を継続的に創出するために、競争力と優位性を生み出す多様な人材の活躍促進と育成に力を入れている」と語った。

多様な働き方の取り組みとして、2017年からテレワーク制度のトライアルを開始し、2018年に本導入、本年度からは対象者や制度内容を大幅に拡充した。職務に応じた多様かつ柔軟な労働時間制度の整備や有給休暇取得の促進などに継続的に取り組み、年間総労働時間は年々短縮している。

ダイバーシティ&インクルージョンに関しては、女性活躍推進として男女人数比率改善の行動計画に基づいて、採用、昇進、研修機会を設け、キャリアビジョン支援やマネジメント層の意識改革にも取り組む。「障がい者雇用では、一人ひとりが仕事の主役として活躍できる環境整備に力を注いでいる」という。

健康経営については、国内において最高健康経営責任者(CHO)を早期に設置。2020年にはEHS経営最高責任者をトップとしたグローバル体制に移行し、環境・健康・安全について、一体的に推進している。

「コロナ禍でのメンタルヘルス、健康運動啓発、外部の相談窓口設置などを進め、本年度は3年連続して健康経営優良法人ホワイト500に認定され、上位10%台に入った。現在、がん、生活習慣病、メンタルヘルスを重点課題として取り組むとともに、労働災害の削減に向けて国際規格ISO45001に準拠した労働安全衛生マネジメントシステムを構築中」だという。

さらに、エンゲージメントを高めるための取り組みとして、「DS Smart Work」を紹介。社員の誇りややりがい、自発的行動につながるエンゲージメントを向上させることで生産性を高め、継続的な付加価値の創出を目指す。「スマートワークへの取り組みを加速し、企業の活力を高めていきたい」とまとめた。

自主性を重視する働き方改革と健康状態の可視化に取り組む:ユニ・チャーム

続いて、ユニ・チャームからは、グローバル人事総務本部 人事部長 渡辺幸成氏から取り組み事例が紹介された。

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ユニ・チャームの渡辺氏

「1961年に設立、60周年を迎える日用品・消費財メーカーで、SDGsが我が社のパーパスを掲げ、共生社会の実現に寄与することをミッションとしている。そのため、生活者の『不快』を『快』に変え、生活者の夢を叶えるというビジョンを『NOLA&DOLA』と定め、商品やサービスを提供している。このビジョンを実現するために、企業価値の源泉である社員と会社が成長し、働きがいのある会社の実現に取り組んでいる」と説明。

東日本大震災を契機に2012年4月からサマータイムを通年導入。生活習慣や夜型勤務を見直し、朝型勤務で業務効率を高めることを狙いとする。「創造性を発揮し、重点課題の解決スピードを上げる施策として、2017年にリモートワークを導入した。業務に応じた最適な働き方を各自で考え、実施する。勤務間インターバル制度も導入している」と語る。

社内のコミュニケーションルールも刷新し、2018年より緊急以外の休日の電話、メールを一斉に禁止。コミュニケーションツールとしての電話主体から、メールやチャットの優先を掲げ、思考を中断させないように意識改革を進めている点もユニークだ。

評価、報酬制度も刷新し、各資格における人材要件を明確にし、個人の成長を促す資格制度に変更した。「期初の目標設定を明確にして合意することで、パフォーマンスに応じた公平な処遇と成長を促す評価制度に変更した」と従来の年功序列の概念を変える。

健康管理の面では、「保健師から健康情報ニューズレターを毎月発行し、健康に対する意識向上の活動を継続している。また、負担なくできるおしっこチェックと呼ぶ仕組みを使い、毎日の身体の状態を見える化する取り組みも開始した」と語る。今後はデジタルを活用したストレス度合いなど、可視化する実験にも取り組んでいきたいと意欲を示す。

自律的な働き方を促し、テクノロジー活用で生産性を高める

セミナー後半は、企業事例の発表者に加えて慶應義塾大学商学部の山本勲教授、学習院大学経済学部の滝澤美帆教授を迎え、「新型コロナ禍でのスマートワーク経営」をテーマにパネルディスカッションを実施した。モデレーターは慶應義塾大学大学院商学研究科の鶴光太郎教授が務めた。

スマートワーク経営研究会委員である滝澤氏は、「企業からの回答データをもとに、2019年7月に最終報告書を公表した。生産性を高めるためのテレワーク活用や、健康経営の施策による従業員のウェルビーイング向上を提案してきた。今回の先進的な2社の取り組みはこれらの提言と合致していた」と述べた。

同委員の山本氏からは「第一三共はグローバル企業らしい人材のダイバーシティに加え、働き方のダイバーシティと制度の整備や、健康経営の取り組みが参考になった。ユニ・チャームの勤務間インターバル制度の導入や休日の電話・メールの禁止など、従業員の側に立った従業員フレンドリーな施策は、他企業にも参考になるのではないか」とコメントした。

鶴氏は「エクセレントカンパ―になるには、働き方改革、ダイバーシティ、健康経営のバランスがとれていること、さらに、従業員をしっかり見て対応していることが条件となると確信した」と感想を述べた。

続いて、鶴氏からの「現在、緊急対策として取り組んでいる内容を継続するか判断に迷っている企業が多い。今後をどのように考えているか」の質問について、古田氏は「紙や判子の文化を変え、どこでも働ける体制を構築することが重要。エンゲージメントを核として、多様な取り組みをしていきたい」と答えた。渡辺氏は、「これからの時代は課題解決できる人や企業が重視されるのではなく、課題提起できる人や企業が重視される。働きがいは社員が自ら決める。企業は環境整備をし、選ばれる会社に進化していくべきだ」と述べた。

最後に鶴氏が「テレワークは自律的な働き方の背中を押す側面がある。多様な選択肢を提供し、テクノロジーを徹底的に活用する。従業員のウェルビーイングとエンゲージメントに対して細かな配慮をする企業が高いパフォーマンスを示すことを本日のセミナーで確信した。貴重な事例の紹介とパネリストの方々のコメントに感謝したい」と述べ、パネルディスカッションをまとめた。

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