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男性の育休取得5割迫る、多様性改革じわり 日経調査

日本経済新聞がまとめた2023年の「スマートワーク経営調査」で、主要企業における男性の育児休暇の取得率が5割に迫った。前年(33.5%)から14ポイント改善し、多様性改革がじわり進みつつある。女性の管理職比率は7.9%と伸びは鈍い。制度だけでなく、組織風土や従業員の理解の醸成が欠かせない。

配偶者が出産した男性社員で育児休業を取得したのは47.7%だった。連続1カ月以上取得した男性は前年から5ポイント超多い15.6%になるなど、まとまった期間を取得する社員も増えている。

日立製作所では22年度の男性の育児休業、育児目的休暇の取得率が57%と前年度から16ポイント上昇した。原動力は労働組合との協議から生まれた「プレパパ・プレママセミナー」。出産予定の本人、パートナーに育児情報を発信する場だ。

「新生児の育児は24時間体制。夫婦でスタートラインを一緒に切ることが大切です」と熱弁するのは、自身も複数回の育休を取った外部の男性講師。セミナーは22年度に7回開き、男性社員約300人が参加した。受講者の31%は育休を取る意向はなかったが、セミナー後はうち9割超が取得を考えるようになった。

日立のグローバルダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン本部、松本明希子主任は「キャリアの心配なく安心して育休を取得できる『心理的安全性』が欠かせない」と話す。

キリンホールディングスは19年から育児など時間に制約がある働き方を1カ月疑似体験する制度を運用。男性育休率は導入前の29%から73%まであがった。資生堂は21年から保育士を講師とした男性向けの育休トレーニングをしている。

22年4月から段階的に施行された改正育児・介護休業法で企業側には制度の周知や取得意向の確認が課された。10月には育児休業と別に産後8週間内で柔軟に取得できる制度も設けられるなど環境は整いつつある。

対照的に改善が鈍いのが、管理職の女性比率だ。課長以上の役職者に占める女性比率は7.9%と前年から0.2ポイントの上昇にとどまる。課長職に限れば9.7%と前年から1.2ポイント増だが、部長職以上は4.8%(前年は4.7%)、執行役員は4.3%(同4.0%)と足踏みしている。

伊藤忠商事は管理職の女性比率は8.6%。女性管理職のうち7割が海外経験がある。子会社トップなどの女性役職者も増加中だ。同社では14年から海外赴任前後の面談を通じて、出産や育児など個々の事情に合わせた支援体制を整えてきた。

オーストラリア子会社社長の寺内香織さんは3人の子供を連れ20年に現地に赴任した。子育てを手伝ってもらおうと母親も帯同する予定だったが、新型コロナウイルス禍でビザが下りない。会社側は日本語に堪能なシッターの確保などで寺内さんを支えた。「経済的な補助だけでなく、前向きな支援の姿勢にも助けられた」(寺内さん)

多様性改革に目を配るのが21年に設置した女性活躍推進委員会だ。取締役会の諮問組織として社外取締役も参加し、起用や教育、働き方などの施策を監督する。22年10月には同委員会の議論をもとに早期のフルタイム復職者への手当も始めた。育児休業を4週間以上取得し、子どもが1歳になるまでに保育園に預け復職する社員への支援だ。

出産後の時短勤務でも給料水準を維持する仕組みはあったが「早く復職しフルタイムで働く従業員に向けキャリアの選択肢を広げた」(人事・総務部の金山義憲室長)。男性も含め約20人が利用し、育休の取得促進にもつながっているという。

金山室長は「男性、新卒採用、日本人の働き方をベースにしたロールモデル、マネジメントを変えなくてはならない」と話す。日本企業の多様性改革は緒に就いたばかりだ。

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スマートワーク経営調査は「人材活用力」「イノベーション力」「市場開拓力」の3分野で構成される。企業向けアンケート調査や消費者調査、公開データなどから18の評価指標を作成し、企業を評価した。

【アンケート調査の概要】

企業向け調査は2023年5月、全国の上場企業および従業員100人以上の有力非上場企業を対象に実施した。有効回答は834社(うち上場企業775社)。なお、有力企業でもアンケートに回答を得られずランキング対象外となったり、回答項目の不足から得点が低く出たりするケースがある。

また一部指標においてはインターネットモニター(一般消費者2万8272人、ビジネスパーソン2万8534人)および日本経済新聞社の編集委員等(65人)の評価も使用した。

【その他の使用データ】

測定指標のうち、市場拡大の一部指標については、レコフM&Aデータベースを基に作成した。

【3分野と測定指標】

3分野のスコアを測定する指標は以下の通り。

人材活用力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、ダイバーシティーの推進、多様で柔軟な働き方の実現、人材への投資、ワークライフバランス、エンゲージメント、人材の確保・定着と流動性の8指標。

イノベーション力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、新事業・新技術への投資、イノベーション推進体制、社外との連携の5指標。

市場開拓力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、ブランド力、市場浸透、市場拡大の5指標。

【総合評価のウエート付け】

各分野の評価を人材活用力(50%)、イノベーション力(25%)、市場開拓力(25%)の割合で合算し、総合評価を作成した。なお、新聞報道等により大きな不祥事等を確認した企業については一部減点を実施した。

【総合評価・分野別評価の表記について】

総合評価は、各社の得点を偏差値化して作成した。★5個が偏差値70以上、以下★4.5個が65以上70未満、★4個が60以上65未満、★3.5個が55以上60未満、★3個が50以上55未満を表している。

また、各社の分野別評価は、偏差値70以上がS++、以下偏差値5刻みでS+、S、A++、A+、A、B++、B+、B、Cと表記している。

評価に使用した各種指標の集計結果やスコアの詳細データは日経リサーチが提供する。詳細はHPを参照。

(日経リサーチ 編集企画部)

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