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リスキリングでAI人材育成、140社が実施 日経調査

日本経済新聞がまとめた2022年の「スマートワーク経営調査」で、人工知能(AI)を使いこなせる人材をリスキリング(学び直し)で半年以上かけて育てる主要企業が約140社に達した。高度人材などの職務内容を定める「ジョブ型雇用」も2割が導入する。紛争や感染症が招いた経済秩序の混乱を乗り切るため、スキルや発想に富む人的資本の価値を最大化する経営が広がる。

調査は6回目で、上場企業と有力非上場企業の計813社から有効回答を得た。AI活用を担う人材を集中育成する企業は137社と全体の16.9%にのぼった。AIはデータ分析や業務の自動化に有効で、使いこなす人材の育成は急務だ。

三井住友トラスト・ホールディングスは新入社員を高度なAI知識を学ぶ外部研修に派遣、半年間は受講に専念してもらう。修了後、一部人材は企画部門などで既存事業効率化や新事業に必要な技術導入を担う。

全社的なAI人材育成をめざすのがソフトバンクだ。22年1月に開始した基礎講座は社員の4割にあたる8千人が受講した。同社はAIで配属の精度を高めている。研修の充実でさらなるAI活用を現場に促す。

人的資本の価値を高めるにはデータ分析など幅広いスキルの提供が欠かせない。21年度の1人当たり平均研修時間は年間15.7時間と、前年度に比べて12%増えた。

資生堂は21年度の1人当たり研修時間が66時間と前年度の2.5倍に増えた。女性管理職候補への研修を充実。デジタル事業に特化する子会社でAIやセキュリティーなどの研修を施している。

専門性の高い人材には、それにふさわしい雇用体系も要る。ジョブ型雇用について、導入済み、または22年までに導入する企業は108社あった。将来の導入予定を含む合計は187社と23%にのぼった。

双日は21年、高度人材に活躍の場を提供するジョブ型専門の子会社を設立した。週3日勤務や副業も可能だ。MBA保持者が2部署を掛け持ちしつつ、中小メーカーの経営を支援するといった事例が出ている。

ウクライナ危機や新型コロナウイルス禍で世界の不確実性が高まっている。企業価値の源泉はハードから、革新的なアイデアやノウハウに移り、これらを生み出す人材を重んじる「人的資本経営」の考えが浸透しつつある。政府も関連情報の開示ルール整備を進める。

調査は多様で柔軟な働き方などで組織のパフォーマンスを最大化させる企業について、人材活用力、イノベーション力、市場開拓力の観点から得点を算出、格付けした。偏差値70以上の最上位にはリコーやNTTドコモなど24社が入った。

総合ランキング一覧(偏差値65未満)はこちら [pdfファイル]

スマートワーク経営調査は「人材活用力」「イノベーション力」「市場開拓力」の3分野で構成される。企業向けアンケート調査や消費者調査、公開データなどから18の評価指標を作成し、企業を評価した。

【アンケート調査の概要】

企業向け調査は2022年5月、全国の上場企業および従業員100人以上の有力非上場企業を対象に実施した。有効回答は813社(うち上場企業761社)。なお、有力企業でもアンケートに回答を得られずランキング対象外となったり、回答項目の不足から得点が低く出たりするケースがある。

また一部指標においてはインターネットモニター(一般消費者2万8274人、ビジネスパーソン2万8322人)および日本経済新聞社の編集委員など(66人)の各社評価も使用した。

【その他の使用データ】

測定指標のうち、市場拡大の一部指標については、レコフM&Aデータベースを基に作成した。

【3分野と測定指標】

3分野のスコアを測定する指標は以下の通り。

人材活用力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、ダイバーシティーの推進、多様で柔軟な働き方の実現、人材への投資、ワークライフバランス、エンゲージメント、人材の確保・定着と流動性の8指標。

イノベーション力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、新事業・新技術への投資、イノベーション推進体制、社外との連携の5指標。

市場開拓力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、ブランド力、市場浸透、市場拡大の5指標。

【総合評価のウエート付け】

各分野の評価を人材活用力(50%)、イノベーション力(25%)、市場開拓力(25%)の割合で合算し、総合評価を作成した。

【総合評価・分野別評価の表記について】

総合評価は、各社の得点を偏差値化して作成した。★5個が偏差値70以上、以下★4.5個が65以上70未満、★4個が60以上65未満、★3.5個が55以上60未満、★3個が50以上55未満を表している。

また、各社の分野別評価は、偏差値70以上がS++、以下偏差値5刻みでS+、S、A++、A+、A、B++、B+、B、Cと表記している。

評価に使用した各種指標の集計結果やスコアの詳細データは日経リサーチが提供する。詳細はHPを参照。

(日経リサーチ 編集企画部)

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