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日経スマートワーク大賞2026

人的資産 企業価値高める

日本経済新聞社は2月26日、人的資産の充実などを通じて企業価値を高めている先進企業を表彰する「日経スマートワーク大賞2026」の表彰式を開いた。受賞企業は人への投資、人工知能(AI)をはじめとしたテクノロジーの活用で独自性のある取り組みを進め、生産性の向上に結びつけている。各社の施策と喜びの声を紹介する。

日経スマートワーク大賞2026の表彰式

「日経スマートワーク大賞2026」表彰式、前列に受賞企業代表者が並んだ(東京都千代田区)

大賞 ソフトバンク

AI活用人材を育成

「テクノロジー活用力」「人材投資力」の2部門で最高水準の評価をいただいた。テクノロジーの活用では、3年前から社内で生成AI活用コンテストを始め、すでに12回実施した。1等賞金が1000万円で、毎回2万件超の応募がある。社内は白熱しており、これまでに26万件以上のアイデアが集まった。

コンテストは生成AIが社内に浸透するきっかけになった。昨年夏には業務を理解したAIが必要なツールを使い、自動で実行する「AIエージェント」を1人当たり100個つくる宿題を出した。250万超のAIエージェントが生まれ、今も活用している。

人材投資として、十数年前から社内公募・フリーエージェント(FA)制度を開始。利用した社員は延べ3200人以上おり、新たな分野に1000人以上異動した。企業には新陳代謝が必要だが、新規事業や子会社に手を挙げてもらい、個人のキャリア形成につながっている。

AIがどんどん浸透し、働き方も大きく変わる。現在の制度で足りない点は変える。毎年新しいことにチャレンジし、社員が元気になれば会社も元気になる。好循環を続けるために様々な施策に取り組みたい。

活用コンテストは生成AIが社内に浸透するきっかけになった

活用コンテストは生成AIが社内に浸透するきっかけになった

社内公募やFA 利用促す
宮川 潤一・代表取締役社長執行役員 兼 CEO宮川 潤一・代表取締役社長執行役員 兼 CEO

ソフトバンクは評価軸となる3部門のうち、「人材投資力」「テクノロジー活用力」の2部門で最高水準の「S++」を獲得した。総合ランキングでも5つ星(偏差値70以上)を獲得。「人材活用力」を含めた3部門すべてで次世代を見据えた人材戦略の有効性を示しており、審査委員会の満場一致で大賞に選ばれた。

社内公募・FA制度の利用は非常に活発だ。24年度の利用人数は257人に上り、全社員に占める割合は1.4%に達する。制度の利用を促すために、所属する部署の上長への報告や許諾を不要にしたり、異動がかなわなかった社員を含めて応募者全員に対して結果をフィードバックしたりしている。異動が実現した人を対象にした効果検証も手掛ける。

社内副業制度の利用も24年度には129人に。従業員のキャリア自律を最大限に支援し、高いエンゲージメントを実現している。 テクノロジー活用力では、生成AIの中核人材に対して半年以上の集中的な育成プログラムを実施。社内コンテストを通じて、生成AIへの理解や利活用を促している。

人材活用力では女性の出産後の休業からの復帰を促す施策が充実している。延長保育など一時的な育児に関する費用補助や、企業主導型保育所との提携、保育施設に関する情報提供・紹介サービスに加え、復帰前後のビジネススキル研修の実施・補助も提供する。

審査委員特別賞 富士通

  • ・頻度、カバー率の高い従業員意識調査
  • ・社内公募やFA制度の利用率が高水準
  • ・社員や関係者が紹介する人材採用で成果
「革新」通じ生産性向上
時田 隆仁・代表取締役社長CEO時田 隆仁・代表取締役社長CEO

事業ポートフォリオを変えながらイノベーションを起こすことが、富士通には創業からのDNAとして備わっていると自負している。イノベーションは多様性なくしては生まれない。多様な社員が互いを尊敬しつつ、強みを最大限に発揮しながら自律的に活動できる会社にしたいとの思いから、人事制度やマネジメントを変革してきた。

この変革を進められたのも、このような賞をいただけたのも、社員一人ひとりが厳しい変化を受け入れ、自分事として取り組んでくれたからであり、変革を見守ってくれたステークホルダーの支えのおかげだ。この場を借りて深く感謝したい。

テクノロジー企業である当社は、自らのテクノロジーによる生産性の向上を社業を通じて実践し、その実践を社会に共有することが責務だと考えている。社員がウェルビーイングを高めながら自分らしく働く姿を共有することで、社会全体の一層の働き方改革に貢献したい。

人材活用力部門賞 ソニーグループ

  • ・人材活用力部門で唯一の最高評価
  • ・女性や外国人の役員登用に積極的
  • ・従業員調査は回答率9割超
多様性が競争力の源泉
井藤 安博・執行役 CPO井藤 安博・執行役 CPO

エレクトロニクスが祖業だが、今ではゲーム、音楽、映画、半導体など様々な事業がある。今年で創業80周年。創業者の時代から自由闊達な企業文化のもとで多様なアイデアを個人から引き出すことを大切にしてきた。この10年ほどは異なる意見と書く「異見」を提唱し、ソニーのDNAを今の時代に即した形で継承している。

2025年4月に発足した新しい経営体制は、性別や国籍に加え、キャリアや経験した事業領域など多様なメンバーで構成する。事業と人の多様性がソニーの競争力の源泉だ。理工系の女子学生に返済不要の奨学金を給付したり、弊社エンジニアが理工系の楽しさを中高生に伝えたりする活動もしている。

多様な人材が「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」というパーパスのもとで日々取り組んでいる。企業環境の変化は激しいが、他社からも学び、人材施策を進化させていく。

人材投資力部門賞 伊藤忠商事

  • ・正社員1人当たりの研修費が高水準
  • ・入社8年以内に社員全員が海外を経験
  • ・バーチャルオフィスで社内兼業が可能に
社員の能力開発後押し
小林 文彦・代表取締役副社長執行役員 CAO小林 文彦・代表取締役副社長執行役員 CAO

伊藤忠商事は他の総合商社に比べ社員数が2~3割程度少ない。成果を出すには一人ひとりが能力をフル活動し、生き生きと働くことが大切になる。労働生産性を上げる戦略が求められる。

実現のためには、4つの領域で施策が必要だと考えている。まず、無駄な会議や資料などを省き、効率的に働けるようにする。第2にインセンティブ制度などを通じモチベーションを高める。3つ目が健康施策で、社員の健康を守る必要がある。最後が今回の受賞につながった社員の能力開発や人材投資だ。

入社8年以内の全社員に海外経験をさせている。組織の枠を越えてオンライン上でチームをつくり、案件に取り組める社内兼業制度「バーチャルオフィス」により、主体的な成長や挑戦を後押ししている。

創業者の初代伊藤忠兵衛の経営哲学を表した「三方よし」の精神をもとに、人材開発に力を入れ、世の中で信頼される企業になるよう努力していく。

テクノロジー活用力部門賞 NTTドコモ

  • ・テクノロジー関連の全項目で高スコア
  • ・AIで通信ネットワーク保守を自動化
  • ・MRを活用し、現場業務を支援
保守業務 AIで自動化
本 昌子・執行役員総務人事部長本 昌子・執行役員総務人事部長

2020年度以来、2回目の受賞となり、大変うれしい。当社はグループで約5万人の社員がおり、研究開発部門などはもとより、全国に支社・支店を展開している。現場の作業では、さらに進む人手不足に対応するために通信ネットワークの運営、調達、物流などあらゆる現場でテクノロジーを活用し、業務の効率化を進めている。

AIを使った通信ネットワークの保守業務の一部を完全自動化した取り組みが、受賞の決め手になったと聞いた。ほかにもAIによる調達物流配送の最適化や、複合現実(MR)技術を活用した現場作業の支援など幅広く継続的に業務の効率化を実現している点を総合的に評価してもらったと認識している。

社員がテクノロジーを活用することで働きやすさを追求しながら、次に新しい分野でもやる気を持って力を発揮できることが重要になる。今後もテクノロジーと人を大切にし、社会に大きな価値を提供していきたい。

中堅企業部門賞 ニチリン

  • ・定期的かつ透明性の高い正社員登用制度
  • ・キャリア開発支援に積極的
  • ・人的資本開示が充実
女性・外国人の力生かす
曽我 浩之・代表取締役社長曽我 浩之・代表取締役社長

当社は様々なホースや配管部品の専門メーカーとして世界10カ国、18拠点で事業を展開している。社員400人でこれをカバーするために、人材への投資は最重要テーマだった。

人材獲得では、女性や外国人の比率向上を意識している。女性向けには長期育児休業や時短勤務はもちろん、0歳児保育への支援を実施。外国人対策では日本語の能力開発だけでなく、研修によって受け入れる側の意識改革にも力を入れてきた。彼らの能力の高さはグローバルな事業展開に大変役立っている。

社員の自発的な能力開発を後押しするため、資格手当を数多くそろえているのも特徴だ。入社2〜3年目から海外派遣のチャンスがあるので、外国語能力資格の人気が高い。構内全面禁煙に向けて禁煙プログラムを用意するなど、健康経営にも力を入れている。

受賞にあたり、人的資本経営の推進に応えてくれた社員全員に賛辞を贈りたい。

審査委員長 日本赤十字社社長 清家 篤氏

働きやすい環境、成長の条件
清家篤氏清家 篤氏

日本の経済状況は不透明感を拭えない。10年後には総人口に占める高齢者人口が3分の1以上に達し、労働力はますます希少になる。

危機ともいえる環境下で、すべての企業に共通するのは「人材こそ宝」ということだ。人材への投資や有効に生かすテクノロジーの活用による生産性向上、さらには変化する市場環境にあわせた柔軟性や俊敏性が求められている。受賞企業はこれらをいち早く捉え、早期に課題に対応し、自社らしい人的資本の充実を実現している。

これまでの審査を通じて、評価ポイントがより高度化していると感じている。とりわけ従業員個々のエンゲージメントやキャリア自律に向けた優れた施策が増えている。経営の価値観が組織や事業全体にかかわる変革・改善から、一人ひとりの成長や働く環境の整備に移っているように映る。

人的資本の蓄積や決してたやすい戦略ではない。ただ、従業員が高いスキルとワークエンゲージメントを備え、生き生きと働ける環境を整えることで、規模を問わず企業は成長し続けることはできると考えている。

各賞の構成

・日経スマートワーク大賞
人材活用力、人材投資力、テクノロジー活用力など企業の成長に不可欠な力を総合的に評価し、最も優れた企業に贈る

・審査委員特別賞
大賞に準じる企業や、特定の分野で際立った取り組みをしていたり、飛躍的に成果を高めたりした企業

・人材活用力部門賞
人材活用に関する全社的な目標や効果、ダイバーシティーの推進状況などを総合的に評価

・人材投資力部門賞
特徴ある施策で人材投資を加速し、新たな人的資産を創出している企業

・テクノロジー活用力部門賞
人材活用力、人材投資力の両部門でテクノロジーの有効活用を進めている企業

・中堅企業部門賞
規模などの制約がありつつ、優れた特色を持ち、他社の一つの目安になる中堅企業

・審査委員会
日本赤十字社社長 清家 篤(審査委員長)
昭和女子大学総長 坂東 眞理子
大妻女子大学データサイエンス学部教授 鶴 光太郎
モルガン・スタンレーMUFG証券シニア アドバイザー ロバート・アラン・フェルドマン
大阪大学大学院基礎工学研究科教授 石黒 浩

(敬称略)

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