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日経スマートワーク大賞2025

人的資本 成長への道筋

日本経済新聞社は柔軟な働き方の推進や人材投資などを通じて企業価値の最大化を目指す先進企業を表彰する「日経スマートワーク大賞2025」の表彰式を2月25日、開いた。従業員のウェルビーイングの向上や、成長分野への人材投資の加速、テクノロジー活用などの観点から取り組みを評価。大賞に選ばれた日立製作所など7社の取り組みを紹介する。

日経スマートワーク大賞2024の表彰式

「日経スマートワーク大賞2025」の表彰式で記念写真に納まる受賞者(2月25日、東京都千代田区)

大賞 日立製作所

要職に外国人多く

日立は評価軸となる「人材活用力」「人材投資力」「テクノロジー活用力」の3部門とも最高水準の「S++」を獲得し、そのクラス内でも優れた評価を得た。総合ランキングも5つ星以上(偏差値70以上)を得ており、審査委員会の全会一致で大賞に選ばれた。

中でも評価の高かった分野が人材活用力だ。イノベーションを生み出すには旧来型の画一的な経営体制や人員構成からの脱却が不可欠として、人材の多様化を進めている。最高人事責任者(CHRO)にイタリア出身のロレーナ・デッラジョヴァンナ氏が就くなど役員や管理職にも外国人人材が多く、これが高く評価された。

労働時間の削減にも注力し、一般社員だけでなく裁量労働制社員や管理職も含めた全社の労働時間を一定の水準に抑えている点も優れていた。

テクノロジー活用力ではAI関連の評価が高かった。例えば、社内副業制度では、生成AIを活用した検索システムを試行的に導入した。社員が自ら求人票を確認しなくても、多様な求人提案を受けられる。自分では思いつかないような分野の求人などが効率よく受け取れ、社員のスキルアップや最適配置につながったという。

国籍や性別の異なる多様な人材が働いている

国籍や性別の異なる多様な人材が働いている(都内のIT部門の拠点)

未来描くのは「人材」
東原敏昭会長東原敏昭会長

日立は製品やシステムを組み合わせて社会の課題を解決する「社会イノベーション事業」をグローバルに展開している。どの地域にどんな課題があるのかを探索し、ソリューションを見つけ出すのは人だ。「人財」がいかに重要か、常に感じている。

人財の面では、重要なことが3つあると考えている。いろんな社会課題を自分事として考えていく「主体性」、自分の意見を押し付けるのではなく相手の価値観を理解する「共感力」、課題解決に向けて多様な人財を巻き込むための「リーダーシップ」だ。

これからの時代、人間の生活を豊かにするためにAIやロボットの活用が増えてくる。人間がAIやロボットに使われるのではなく、人間中心の社会をどうつくるか。その未来をデザインするのも、やはり人財だ。

今回の受賞はスタートラインに立ったにすぎない。もっともっと人財を活用して、グローバルに成長していきたい。

審査委員特別賞 TIS

  • ・技術革新の激しいIT業界にありながら、選択定年と継続雇用で70歳まで雇用
  • ・定年前と同じ給与を維持する処遇制度
  • ・人材投資力で最高水準の評価
シニア社員、活躍の場
岡本安史社長岡本安史社長

TISはグループ全体で約2万2000人の社員が働き、総合的なIT(情報技術)サービスを提供している。IT業界では生成AIなど技術革新が進み、専門性の高い人材が求められる。人事施策の軸は①働く意義を理解して自律的に行動②オフィスや人事制度を含めた働く環境の整備③報酬――だ。社員が自主性をもって価値を生み出せるようにしている。

年齢に関係なく成長と活躍の機会を提供し、成果に応じた処遇をし、公平性を重視した制度設計と運用を行っている。2019年度に「55歳以上の報酬の減額」「60歳定年」を廃止した。同時に選択定年制度を導入した。20年度には70歳までの再雇用を導入した。これらの取り組みで60歳以上のシニア社員のエンゲージメントスコアは大きく向上した。今後も働く意欲のあるシニアの社員が会社とともに成長し、活躍してほしい。

人材活用力部門賞 花王

  • ・男女間の賃金格差が極めて小さい
  • ・正社員や採用に占める女性比率が高い
  • ・副業兼業も制限なく多様な働き方を支援
個々の力、組織の力に
間宮秀樹上席執行役員間宮秀樹上席執行役員

花王は2027年を最終年とする中期経営計画「K27」を23年8月に策定し、その達成に向けた活動に全社で取り組んでいる。重要な要素の一つが「社員活力の最大化」だ。人材の活力を最大化するとともに、人材の力を結合して組織の力に変えていくという意味だ。社員活力の最大化こそが新たなイノベーションを起こし、企業価値を最大化し、我々の使命である社会課題の解決につながっていく。

人材活用力部門賞の受賞理由をお聞きすると、女性活躍をはじめとしたダイバーシティーへの取り組み、役割に応じた多様な働き方の推進、さらには兼業・副業、社内外での新しい経験を促すための取り組みを評価いただいた。人材・組織の活力最大化は大変重要だが、成果が出るには時間がかかるものが多い。時には修正や改善を加え、継続的にサイクルを回すことが重要で、今後も精進していく。

人材投資力部門賞 三菱商事

  • ・正社員1人当たり研修費が突出して高い
  • ・海外留学・研修制度の利用人数が多い
  • ・専門人材の出向・受け入れ人数が多い
人への投資 惜しまず
中西勝也社長中西勝也社長

将来の会社のありたい姿はどういうものか、日々議論を重ねている。昨年、三菱商事の人事ビジョン「DEAR」を策定した。

DはDEI(多様性、公平性、包摂性)を含めたDiversityだ。総合商社は海外展開し、多様性を受け入れることが昔からの使命だ。EはEnergize、活(い)かすという意味だ。イキイキ・ワクワクする、チャレンジできる組織風土を醸成していく。AはAccelerate、早期に人材を育成し、自律的な成長を促すことを指す。RはRewardだ。報酬・配置・職務によるメリハリある処遇で報いていく。

社員に機会を与え、個性を発揮してもらうために人材への投資は惜しまない。社員の成長が会社の成長につながる。人材こそが価値創出の源だからだ。今後も人材教育に努め、人材競争力を高めていきたい。

テクノロジー活用力部門賞 ソフトバンク

  • ・生成AIコンテストの社員参加率が高い
  • ・コールセンターの本人確認でAIを活用
  • ・人材活用力、人材投資力でも最高の評価
AI活用、提案19万件
青野史寛専務執行役員青野史寛専務執行役員

私がソフトバンクに入社して20年。日本テレコム、ボーダフォンなどどんどん仲間に加わった。今ではLINEヤフー、PayPayなどグループ従業員数は5万人を超える。文化の異なる企業を融合するのは骨が折れるが、社員の提案を大切にして、社員のチャレンジを引き出すのを人事ポリシーにしてきた。

ブロードバンドの普及やiPhoneの国内販売などチャレンジの歴史だ。最先端のテクノロジーをまず自ら活用し、使い倒して顧客企業に提供する。2年前から社内で生成AI活用コンテストを実施し、社員からの提案件数は19万件を超えた。先日は米オープンAIとの提携も発表した。ソフトバンクを一つの実験台として、社員自ら生成AIを使い、すべてのシステムをエージェント化することを通じて新しい価値を生み出したい。情報革命で人々を幸せにしていきたい。

中堅企業部門賞 きもと

  • ・製造部門の人員が多いにもかかわらず在宅勤務の実績に優れる
  • ・全社員が対象の完全フレックスタイム制
  • ・過重労働防止の取り組みなどが多様
変化への対応力 育む
小林正一社長小林正一社長

2009年から働き方改革を進め、常に想定外を視野に入れて変化への対応力を高めることをめざして、自律分散型の組織文化を育んできた。

社員が自由で柔軟な働き方を選べるよう、フリーアドレスを取り入れ、リモートワークを推進し、コアタイムのないスーパーフレックスタイム制や3カ月フレックスも導入するなど環境を整えてきた。人事異動では部署の枠にとらわれず多能化やローテーションを進め、社員が人脈を広げながら挑戦や成長ができるようにしている。

もちろん、女性の活躍推進にも気を配っている。様々な価値観を受け入れ、率直な意見交換ができる風通しの良い職場は、新たなアイデアやイノベーションの創出につながる。それが会社の強さとなると確信している。社員一人ひとりが輝くことで会社も成長する、そんな未来をめざして挑戦を続けていく。

殿堂入り(5年連続) サントリーHD

  • ・19~20年に大賞を連続受賞。その後もトップクラスの評価を受け続けている
  • ・21年以降、5年連続で殿堂入り
  • ・研修制度が充実、特に人材投資で高評価
全社員の活躍目指す
山田賢治副社長山田賢治副社長

サントリーの歴史において、いつの時代も成長の原動力となってきたのは「人財」だ。サントリーが大切にしている「やってみなはれ」精神を発揮する「人」こそがもっとも重要な経営基盤であるとの考えから、社員との関係を中長期的に捉え、すべての社員の活躍をめざしている。

社員一人ひとりが自主的に学ぶことのできる学び舎「サントリー大学」や、事業や部門をまたぐ積極的なジョブローテーションをはじめとする人財育成、健康経営などの取り組みを通じて、生き生きと働くことのできる職場環境づくりに取り組んできた。

昨年には男性社員の育児休暇取得率100%を達成した。男性の育児参画を促し、育児の初期の段階から家族と協力しあう体制をつくることは、(互いの個性や特徴を認め合う)インクルーシブな企業風土の醸成にもつながると考えている。

審査委員長 日本赤十字社社長 清家篤氏

粘り強い取り組みこそ王道
清家篤氏清家篤氏

日本経済は堅調な状況だが、賃上げの継続やその実現のための制度改革といった多くの課題もある。課題の多くの部分を占めるのは、人に関する問題だ。日本を本格的な成長軌道に戻していくためには、人材をいかに確保し、必要なスキルのレベルを上げていくかという基本に立ち返ることが必要だろう。

そこで、8回目を迎えた「スマートワーク大賞」は今回、評価の枠組みを大きく変えた。十分な成長を遂げていくためには、人の活用や人への投資などの、成長の基盤を引き上げることが重要だと考えたためだ。

従来からの評価軸であった「人材活用力」に加え、将来の成長のための「人材投資力」を別の柱として独立させた。これに、生成AI(人工知能)などの先端テクノロジーを駆使して生産性を高める「テクノロジー活用力」を加えた3つを評価軸とした。

今回の調査では、偏差値70以上の成績を得た企業が大きく減った。評価軸の変更が影響したと考えているが、人への投資についてはまだまだ多くの企業で改善の余地があることを示したともいえる。だがそれは、さらに発展する余地も大きいということではないか。

人への投資によって目に見える成果を得るまでには長い時間がかかる。人的資本や人的資本投資を充実させることで生産性を高め、従業員の賃金を上げ、企業価値を向上させる道筋に近道はない。常に基本に立ち返り、粘り強い取り組みを重ねていくことが王道であると確信している。

日本経済新聞社は「スマートワーク経営」を従業員のウェルビーイングの向上等により人材を最大限活用するとともに、人材投資を加速することで新たなイノベーションを生み、生産性を向上させ、企業価値の最大化を目指す経営戦略と位置づける。「日経サステナブル総合調査・スマートワーク経営編」に基づき評価し、先進企業を表彰するとともにこうした取り組みの拡大を後押ししていく。

・日経スマートワーク大賞
人材活用力、人材投資力、テクノロジー活用力など、企業価値を高める力を総合的に評価し、最も優れた企業

・審査委員特別賞
大賞に準じる企業や、特定の分野で際立った取り組みをしていたり、飛躍的に成果を高めたりした企業

・人材活用力部門賞
従業員のウェルビーイングの向上、DEI(多様性、公平性、包摂性)の推進などにより、既存の人的資産を最大限活用している企業

・人材投資力部門賞
成長分野への人材投資を加速し、新たな人的資産の創出に優れた企業

・テクノロジー活用力部門賞
人材活用力、人材投資力の行部門においてテクノロジー有効活用を進めている企業

・中堅企業部門賞
規模などの制約はあるものの、スマートワーク経営の優れた取り組みを進めており、他の中堅企業の施策の目安の一つとなる企業

・審査委員会
日本赤十字社 社長 清家篤(審査委員長)
昭和女子大学 総長 坂東真理子
慶応義塾大学大学院商学研究科 教授 鶴光太郎
モルガン・スタンレーMUFG証券 シニアアドバイザー ロバート・アラン・フェルドマン
大阪大学大学院基礎工学研究科 教授 石黒浩
日本経済新聞社 常務執行役員論説委員長 菅野幹雄

(敬称略)

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