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日経スマートワーク大賞2022

柔軟な働き方で成長 業務革新に先端技術

日本経済新聞社は働き方改革を通じて成長を目指す先進企業を選ぶ「日経スマートワーク大賞2022」を決定し、表彰式を開いた。大賞のダイキン工業をはじめ、柔軟な働き方の支援や社内外の多様な人材・先端技術の活用を通して、イノベーション(革新)を推進する6社の取り組みを紹介する。

大賞 ダイキン工業

産学連携で脱・自前主義

ダイキン工業は産学連携や他社との共同開発に数多く取り組み、多様な人材を活用して事業を革新してきた点が評価された。希望者全員が70歳まで働き続けられるなど柔軟な働き方も積極的に取り入れる。「人材活用力」「イノベーション力」「市場開拓力」といった主要な評価項目で審査委員の支持を集めた。

同社は井上礼之会長の「自前主義から脱却する」との掛け声で産学連携を加速させてきた。東京大学や大阪大学など複数の大学に研究資金を拠出し支援を広げつつ、空調部品の改良などで協力関係を築いた。大学の研究者と社員を相互交流させるなど、人材育成にもつなげている。

スタートアップとの連携も成果を上げている。東大発のフェアリーデバイセズ(東京・文京)が開発した、カメラを搭載したウエアラブル端末を活用。熟練技術者が遠隔地にいる作業者に空調の設置や修理を指示し、効率化する仕組みを導入した。既にアジアを中心に10カ国以上で運用している。

アフリカのタンザニアでは別の東大発スタートアップのワッシャ(同)と組み、空調機器を無償で設置し使う時だけスマートフォンで料金を支払うサービスを始めた。所得水準が低い国で空調の導入のハードルを下げ、快適な暮らしづくりを後押しする。

働く意欲のあるシニア社員には活躍の場を提供する。60歳の定年後、希望者は70歳まで再雇用できるようにした。原則一律としてきた賞与も成果に応じて4段階に分けて支給する。「高いノウハウや経験を重ねた人材のモチベーションを保ち、活躍してもらう」(同社)考えだ。

スマホ決済を使った新サービスでアフリカ市場を開拓する(タンザニアでのエアコン検査風景

スマホ決済を使った新サービスでアフリカ市場を開拓する(タンザニアでのエアコン検査風景)

人こそ競争力の源泉
十河政則社長十河政則社長

我々を取り巻く環境は大きく変化している。その1つが脱炭素社会、カーボンニュートラルの実現だ。企業には、事業成長と脱炭素への取り組みとの両立が求められる。

当社は空調の普及に貢献してきた。ただ、電力消費が多く地球温暖化に影響を及ぼす事業でもある。国際エネルギー機関(IEA)によると2050年の空調需要は3倍になる。電力消費量は膨大になる。さらに革新的な環境技術で、温暖化の影響を低減することが社会的使命だ。

新型コロナウイルス禍では安心安全、快適、元気で幸せな生活をいかに送れるかが価値になった。空気の価値をどう高めていくのかが重要な課題だ。企業の競争力の源泉は人だ。今後も多種多様な人材の力を原動力としてイノベーションを生み出し、新たな市場を開拓して社会に貢献していく会社であり続けたい。

審査委員特別賞 アサヒグループHD

部門を超えて高め合う社員

アサヒグループホールディングス(GHD)は工場など生産部門でのリモート勤務といった生産性を高める取り組みが評価され、審査委員特別賞を受賞した。工場の技術指導に拡張現実(AR)の技術を活用。新型コロナウイルス禍にあって、生産現場の効率化に力を入れている。リモート化の対象は、水や電気などの利用状況の監視業務と生産ラインでの技術指導だ。通信ネットワークを確立し遠隔でアクセスが可能になった。

国内工場の監視業務は2022年からリモートでの試行に取り組み、制御の安全性などの運用面の検証を始めた。25年上期には国内の全工場での運用を予定する。将来的には遠隔業務を集約し、1つの拠点から国内の工場を集中監視できる体制を目指している。

技術指導は新製品の品質をそろえるために不可欠で、まず海外工場でリモート化を始めた。ARを使ったゴーグル「ARグラス」に搭載したカメラで、工場と本社の生産管理部門とを動画通話などでつなぐ。効率化で削減した労働時間は、マーケティングや商品開発などに振り向けた。21年には「生ジョッキ缶」など、新たなヒット商品が登場。生産性の改善がイノベーションの創出につながる好循環を実現した。

多様な働き方を支える仕組みも拡充した。始業と終業の時間を本人が決め、就労義務のあるコアタイムのない「スーパーフレックス制度」と在宅勤務を併用できる。仕事の合間に保育園に子供を送迎するなど、育児や介護など個人の事情に合わせた働き方を選ぶことができる。

ARグラスに搭載されたカメラで工場と本社をつなぐ

ARグラスに搭載されたカメラで工場と本社をつなぐ

多様化が成長促す
勝木敦志社長勝木敦志社長

海外企業のように多様性を次の成長につなげることを目指している。2030年にグループの国内外8社で、部長以上の経営層の4割以上を女性にしたい。社員で構成するサポーター制度を導入した。サポーターが職場で意見を集め、会社へ提言する仕組みだ。すべての社員が自分らしく働けるようメッセージを発して、職場の多様性を実現していく。

未来のサプライチェーン作りにも取り組む。拡張現実(AR)グラスを活用して海外の工場と国内をつなぎ、20年に「アサヒスーパードライ」をローマ工場で造り始めた。リモートで技術支援をしたら、日本で造るよりおいしいのではないかというほどのレベルの商品ができた。

これからはICT(情報通信技術)を活用して工場の操業状況をリモート監視する。現場で業務をしている人以外は、1カ所、もしくは家庭で工場の様子を監視できる。画期的な生産性の向上につながると期待している。

人材活用力部門賞 SOMPO HD

「対話」で女性幹部育てる

SOMPOホールディングスは社員のスキルやキャリア開発への手厚い支援に加え、女性活躍の促進などが評価され、人材活用力部門賞を受賞した。従業員の能力向上や人材育成を目的とした研修費用が充実し、1人当たりの金額も全体平均に比べて高かった。若手社員向けの短期海外研修やキャリアプランニング研修など、次世代のリーダー育成や自立的なキャリア形成をサポートする仕組みづくりにも力を入れる。

女性役員と幹部候補の女性社員が対話する機会を設けるなど、女性の登用につながる施策に積極的だ。20年度末の課長相当職以上(部長相当職未満、ライン)の女性比率は約26%と全体平均を大きく上回った。

新型コロナウイルス禍での健康経営を目指す取り組みも評価された。社員の健康問題による生産性の低下をグループ共通のKPI(重要業績評価指標)で測定するなど、社員の健康維持・増進に努めている。テレワークの拡大に合わせ、メンタルヘルスに関するeラーニングを導入し、生産性の向上につなげている。

社員自身のパーパスを定義
原伸一執行役常務原伸一執行役常務

人材活用の土台となる社員の仕事のやりがいや幸福度の向上、高い生産性の実現へ働き方改革を進めている。当社のパーパス(存在意義)は「安心・安全・健康のテーマパークにより、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」だ。改革の達成には、社員一人ひとりがこのパーパスを「自分ごと」とすることが重要だ。

自分自身のパーパスを定義し、実現するために働くことで自律・自走の状態が生まれる。グループの最高経営責任者が自らのパーパスについて発信するミーティングには、これまでに約1万人の社員が参加した。自身と会社それぞれのパーパスを重ね合わせることで、「安心・安全・健康のテーマパーク」に挑戦していく。

イノベーション力部門賞 ソフトバンク

高度人材を社内外で育成

「イノベーション力部門賞」を受賞したソフトバンクは、人工知能(AI)など先端のテクノロジーを活用できる人材の登用や社内外での育成を進める。日本全体で技術革新が生まれやすい基盤づくりを目指す点が評価された。

自社のIT(情報技術)人材は5千人を超え、研究職など高度専門人材として働く外国人も多い。定型作業の自動化など業務自体のIT改革も加速させている。社内起業制度による事業化も20件ある。

企業や自治体といった外部の機関とも積極的に連携している。東京大学とは「Beyond(ビヨンド)AI研究推進機構」を設立し2020年にAIの共同研究を始めた。産学での共創により、高度なAI技術の社会実装を加速させるのが目的だ。

4月には高校生を対象にAI教育プログラムの提供を始める。社内の人材も講師として派遣し、若年層が実践的な技術に触れられる機会を増やす。自社に限らず、AI人材自体を育成できる環境の整備に貢献する狙いがある。

先端テクノロジーで社会の課題を解決
青野史寛専務執行役員青野史寛専務執行役員

先端テクノロジーを使って社会の課題解決に取り組んできた。5Gや人工知能(AI)などデジタルの社会実装を推進する。一番重要なのはIT(情報技術)の人材、そしてイノベーションを起こす仕組み、社員のエネルギーだ。

社内のアイデアから会社をつくる制度が11年前にでき、7100件から20件が事業化された。350件に1つという非常に狭き門だが、何回も挑戦することが会社の文化になった。イノベーションを支える力があってこそこれからの会社の未来を創っていける。

自治体や他の企業、研究機関とも組み、愛知県では建物などに最先端技術を取り入れたスタートアップの拠点もできた。東大など外部とも協力することで、日本全体が元気になる仕組みをつくっていきたい。

市場開拓力部門賞 ソニーグループ

社内起業支援で事業創出

ソニーグループは社内の人材や技術力を駆使しビジネスを広げる姿勢が評価され、市場開拓力部門賞を受賞した。社内起業を支援する仕組みを独自に構築し、新規事業の創出につなげている。

2014年に始めた「ソニー・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム」は社員のアイデアをもとに、専門人材が新たな事業の立ち上げを支援する。エレキ、通信、エンタメなど多様な社内の部署や外部企業と連携して、事業拡大につなげる。

これまで70件以上の事業化を検証し、実際に17の事業を生み出した。新入社員のアイデアを具現化して、新しいスマートウオッチを開発した例もある。ノウハウを外部にも提供し、京セラなどの新規事業の立ち上げにもつながった。

技術の評価も高い。人工知能(AI)を使いこなす専門技術者は200人を超える。スマートフォンやカメラ向けのCMOS(相補性金属酸化膜半導体)センサーは高画質化や小型化に強みを持ち、世界で半分のシェアを握る最大手だ。

全社員がAIを活用
石塚茂樹副会長石塚茂樹副会長

多様な人材とテクノロジーを強みに、様々な製品、サービス、コンテンツを生み出し、挑戦してきた。2021年に国内グループ社員約4万人を対象に、AI(人工知能)リテラシー研修を実施した。全社員が日常的にAIを活用するスキルを身に付ける。

テクノロジーはエンタメでも重要だ。サッカーなどの判定システムを提供するホークアイは試合映像から選手の姿勢やボールの動きをデータ化し3D映像で再現する。英マンチェスター・シティと次世代のファンコミュニティー実現へ実証実験を行っている。

イメージセンサーでは、世界で初めてAI処理機能を搭載した。渋滞や事故などの社会課題を解決する実証実験や、ビル内空調システムの電力消費抑制に活用されている。

テクノロジー活用部門賞 東京海上HD

事故・災害対応 AIで速く

東京海上ホールディングスは人工知能(AI)など新しい技術を積極的に取り入れた業務改革が評価され、テクノロジー活用部門賞を受賞した。傘下の東京海上日動火災保険は自動車事故の対応や水害発生時の被害の把握でAIを導入した。システムへの迅速な記録の入力で、労働時間の削減につなげる。

事故対応部門では顧客とコールセンターの通話内容を音声マイニング技術で分析し、適切な法律用語などを自動で予測・提案するAIを開発した。担当者ごとに生じる入力内容のばらつきを減らすとともに、入力時間を年間で約30万時間削減することを見込む。

自然災害時の被害の把握にも先端技術をいかす。水害発生時には、フィンランドの宇宙関連スタートアップ企業などと協力し、衛星による画像データや過去の保険金支払い実績などを組み合わせてAIが被害の範囲や浸水の規模を推定する。水害地域に人を派遣し1週間以上かかっていた支払いの判断が、最短即日でできる。迅速な保険金の支払いにつなげる。

人とデジタルのベストミックス
小宮暁社長小宮暁社長

「お客様や地域社会の〝いざ〟を支え、お守りする」。当社は創業以来この理念を起点にし、社会課題を解決することでこれまで成長してきた。テクノロジーの活用については常に人とデジタルのベストミックスを考えること、そして、そこで生まれたデジタルシナジーをグローバルに広げることを意識して取り組んでいる。

今回、自然災害や自動車事故への対応で評価をいただいた。環境の変化は激しく、リスクは増大するばかりだ。事故や病気が起きた場合にはできるだけ被害を小さくし、早く復旧・復興するお手伝いをしたい。いつ、いかなる時も一番そばで支える存在になるとともに、社会課題を解決する「ソリューションプロバイダー」になるための挑戦をしたい。

審査委員長 清家篤氏

コロナの逆風下 工夫で改革推進

日本は世界に類を見ない高齢化が進み、企業活動に生産性向上が欠かせない状況となっている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)で企業経営や働く人々の環境も一変した。今こそ、従業員一人ひとりと向き合ったスマートワーク経営の取り組みが求められる。

今回の日経スマートワーク経営調査では、中長期の視点だけでなく目下の厳しい状況で工夫を凝らし生産性向上を果たした企業を高く評価した。大賞のダイキン工業をはじめ、受賞企業は先進的な取り組みで経営力を高めている。

調査を通じて、多くの企業が新型コロナによる2年間の逆風下にもかかわらず、様々な工夫で働き方改革を推進していることがわかった。審査委員一同、大変心強く感じている。

働き方改革による生産性向上の実現には、経営トップのリーダーシップが重要になる。そして、調査に回答いただけること自体がエクセレントカンパニーの証しだと考える。今後も調査への参加企業が増加し、スマートワーク経営が一段と充実することを期待している。輝かしい経済社会の到来を祈念する。

サントリーHD、2年連続「殿堂」入り

各賞とは別に、大賞を連続受賞した企業のみが対象となる「日経スマートワーク殿堂」で、サントリーホールディングス(HD)が2年連続で「殿堂入り」を果たした。

同社は第2回、第3回で大賞を受賞した。「日経スマートワーク経営調査」では、総合ランキングで最も高い評価である5つ星(偏差値70以上)を4年連続で獲得した。人材活用力、イノベーション力、市場開拓力の分野別評価でも4年連続で最高水準の「S++」だった。

特に人材活用力で在宅勤務制度の促進といった、多様な働き方の推進が高く評価された。ウイスキーのインド事業の強化など、市場開拓力についての評価も高かった。

日経スマートワーク大賞2022の受賞企業

概要

スマートワーク経営とは、多様で柔軟な働き方を通じて人材や組織のパフォーマンスを高めるとともに、イノベーションを生み、新たな市場を開拓し続ける好循環を作り出すことで生産性を最大化する経営戦略を指す。日経グループはスマートワーク経営を実践する企業を新しい「日本の優れた会社」として評価するため、企業の競争力を様々な側面から解析する日経スマートワーク経営調査を毎年実施している。その結果を基に「日経スマートワーク大賞」表彰企業を選定している。

・大賞
「人材活用力」「イノベーション力」「市場開拓力」「テクノロジー活用」など、企業の成長に不可欠な力を総合的に評価し、最も優れた企業に贈る。

・審査委員特別賞
大賞に準じる企業や特定の分野で際立った取り組みをしている企業、飛躍的に成果を高めた企業に贈る。

・人材活用力部門賞
多様で柔軟な働き方の体制を整え、人材の能力を最大限に引き出している企業に贈る。

・イノベーション力部門賞
国内外の企業や大学との連携、知的財産の活用、情報化投資、新製品の寄与度などを総合的に評価。

・市場開拓力部門賞
市場開拓の実例やSNSなどのコミュニケーション戦略、顧客満足度、市場シェアなどを総合的に評価。

・テクノロジー活用部門賞
各部門で調査したテクノロジーの活用事例やその効果などを総合的に評価。

・審査委員長
清家篤子 氏(日本私立学校振興・共済事業団理事長)

・審査委員
坂東真理子 氏(昭和女子大学理事長・総長)
鶴光太郎 氏(慶応義塾大学大学院商学研究科教授)
ロバート・アラン・フェルドマン 氏(モルガン・スタンレーMUFG証券 シニアアドバイザー)
石黒浩 氏(大阪大学大学院基礎工学研究科教授)
藤井彰夫(日本経済新聞社論説委員長)    (敬称略)

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