EVENT
ワーケーション会議 in 和歌山
ウィズコロナ時代の新しい働き方を考える
テレワークの普及で、リゾート地などで休暇を兼ねて生産性の高い柔軟な働き方をするワーケーションが注目されている。全国に先駆けてワーケーションを推進する和歌山県白浜に、新しい時代の働き方改革に取り組む先駆者たちが集まり、その現状と課題、今後の可能性について議論した。日本経済新聞社では、シンポジウム「ワーケーション会議 in 和歌山」(主催:日本経済新聞社、後援:和歌山県、ワーケーション自治体協議会)を皮切りに、同会議を鳥取、妙高、釜石でも開催する。
キックオフ・メッセージ
仁坂 吉伸氏
「新しい生活様式」は、家では仕事をしたくない人にまでテレワークを強いている。生産性を上げるには、もう少し非日常的な感覚でのテレワーク、すなわちワーケーションが必要だ。
①首都圏や京阪神からの交通の便利さ②整備されたネットワーク③サテライトオフィスの立地④豊かな観光資源。わが県が持つこの4つの特性は、ワーケーションに適している。コロナから安全という評価も追い風になる。
和歌山県は全国に先駆けてワーケーション推進に取り組んでいる。この会議が、みなさんの生産性向上につながるとうれしい。
基調講演
松田 恵示氏
遊びにはプラスアルファ、余剰の部分というイメージがある。しかし、歴史や文化は遊びの延長線上で生まれたものだ。例えば、肉を焼くという行為は、衛生が保たれるという前に、炎や焼ける音が面白かった、つまり遊びから始まったのかも。遊びの精神がなくなれば、文化や社会、生活は衰退する。
遊びの要件の一つに非日常がある。非日常は日常ではないこと、つまり日常と非日常の間には境界線があり、この境界線を行ったり来たりすることで、遊びが生まれる。
ブランコを思い出してほしい。揺れは不安定な非日常だが、その不安定を積極的に楽しむためには、揺れない日常が不可欠だ。遊びには揺れても安心も必要。だからわくわくする。失敗しても大丈夫という感覚だ。これはとても創造的、主体的な気持ちといえる。
遊びと学び、家庭と職場、普段生活する場と旅先……様々な「間」や周辺性が遊びを私たちにもたらす。これが、イノベーションと呼ばれる、創造的な半歩先を行く動きにつながっていく。遊びが人を育てるというわけだ。
バケーションとワークが結びついたワーケーションも互いの「間」と周辺性がより重要になる。
学びとは他者との出会いとそれによって起こる変化である。自分の世界から、自分の知らない世界へと境界線を越えていく、それが学びだ。つまり遊びとシームレス。
日常から非日常へ境界線を越えていくワーケーションは、まさに学びの場だ。
講演
張 士洛氏
我々は、ワーケーションを「リモートワークを活用し、いつもと違う場所に滞在し、いつもの仕事は犠牲にせず、いつもはできないことをする」と定義する。それをラーニングワーケーションと呼び、そのためのプログラムを提供している。
ラーニングワーケーションの要件は、①正解のないリアルテーマに立ち向かう②価値観を揺さぶる体験③バックグラウンドの異なる人との関わり④自業務への環流。リアルな課題解決、経験を通じて学びを実現する。1年半ほど前から、ラーニングワーケーションの可能性を、紀南地域とともに展開しており、首都圏企業の人材と地元起業家のコラボレーションにより地域課題の解決に取り組んでいる。
今後は、ラーニングワーケーションを通じて、地域ならではの資源を生かした良質なプログラム開発、企業と地域の新たな関係作り、職場内訓練(OJT)、職場外教育(OFFJT=オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)、自己啓発(SD)に続く新たなラーニングの方法を確立し多くの企業の人材育成に貢献したい。
講演
岡本 祥治氏
働き方改革をうまく進めている企業には、共通点がある。①まずは試してみる文化と②性善説に立ったマネジメントだ。
ビジネスのスピードは加速しており、変化にはリスクが伴う。まず試してみる。その結果、やめることも許容する感覚が重要だ。
テレワークは管理が困難だからこそ、常にベストを尽くし働いてくれていると思うことが大切だ。監視された状況では、プロフェッショナルな働き方はできない。主体性に期待することで、個々が力を発揮できる。ワーケーションの効果を高めるためにも、時間管理を本人に任せ、昼間にしかできない、その土地だからこそできる体験が必要だ。
収入ではなく、自己実現のために、地域に貢献したいという人が増えている。今後はワーケーション先での副業も増えていくだろう。
それを許容することは、企業の社会貢献にもつながり、東京一極集中の解消にもつながる。そうした企業が増えることで、日本が元気になり、再び世界で戦っていくシナリオが描けるようになる。
パネルディスカッション
サイボウズ 代表取締役社長
青野 慶久氏
日本能率協会マネジメントセンター(JMAM) 代表取締役社長
張 士洛氏
プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事
平田 麻莉氏
東京学芸大学 理事/副学長/教授
松田 恵示氏
TREE 代表取締役
水野 雅弘氏
AMS合同会社/Dream Project School 代表/元ミネルバ大学 日本連絡事務所 代表
山本 秀樹氏
南紀白浜エアポート 代表取締役社長
岡田 信一郎氏
岡田働き方改革で生み出されるものは何か。そこでリーダーに求められる役割、資質とは何か。
青野働き方改革で離職率が急減、社員のモチベーションが上がり、持続的に成長する会社になった。情報共有の大切さを相互に理解し徹底することで、個性が生きる組織ができた。
張在宅でも同じ場所に居続けると変化がなくなる。場所、会う人、取り組みを変えることで、ワーケーションからイノベーション体験が生み出される。
松田一人ひとりがクリエーティブ、イノベーティブになると、組織でどう戦略を立てるかが課題になる。社会や人々を良くしていくなど「エージェンシー」を育てることが大切。
水野リーダーに求められるのは、社会・環境・自分自身も含んだ持続可能性、災害など様々なリスクに対する回復性、多様性、そして仕事を瞬間的に転換できる機敏性だ。
山本コロナ以降、企業人の働き方がフリーランスに近づいてきた。リーダーには、異なる意見を持つ人たちを、意図する方向へ導く能力が求められる。個人の能力を把握し、個性を尊重しつつ、役割分担し、プロジェクトを完成させる。
岡田新しい働き方を享受するには何が必要か。
青野「経営者が分かってくれない」はだめ。あなたが変われば、環境も変わる。辞めるのも一つの選択肢で、社員が多く辞めれば経営者も気づく。
平田自分の頭で考え、情報を取りにいく。アラートも、自分で声を上げないと誰も気づいてくれない。
松田「1本足打法」ではなく、3?4個の自分が必要。一つがだめでも次の自分で前に進む。
水野テレワークでは、信頼が重要。働く側にも働かせる側にも、同じ目標に向かって成果を共有し合うことが信頼につながる。
山本今後はどう生きて、どういうところで、誰とどんなことをして、成果を残したいかがキャリアになる。どうせなら、好きなことをすべき。好きなことが分からないなら、環境を変えれば、新たな自分に気づく。その意味でワーケーションが活用できる。
岡田自立した働き方に不可欠のモチベーションはどう高めるか。
水野成果・報酬だけでなく、共感、社会の役に立っていることを誰かが評価してくれる仕組みを作ることが企業に求められる。
青野給与・報酬以外の多種多様なモチベーションをどう上げるか。しっかり聞き出し、機会を与えていく必要がある。
平田一人ひとりが同じ方向に向かいつつ自律分散的に働けるように、明確なビジョンと行動指針を示すのがリーダーの役割。
岡田10年後の日本人の働き方、学び方、リーダーシップはどうなるか。
青野先進的な会社との差が開く。コロナで予期せず変わった会社はどんどん前進し、それで少しずつ社会が変わっていく。
水野会社はともかく、外部環境は大きく変わる。技術の進展で、仕事・職種も大きく変わる。なくなる仕事、新たに生まれる仕事も出てくる。10年後の日本は労働人口も減り、災害大国でもある。東京一極集中から本社は地方に移っていく。
技術の進歩で、パソコンに呼びかければ、すぐ他の人とコミュニケーションできるようにもなる。そうなれば分散はさらに進む。
山本リーダーは、技術の恩恵を、競争力強化のためだけでなく、社会全体のために使えるのか。そういう思想が必要。
青野AI・ロボットで生産性は高まるが、将棋やワインのテイスティングまでコンピューターがしたら面白くない。生産性の先にある、人間の幸福度に向き合う時代にしたい。
張和歌山をはじめ各地のアナログ価値を忘れてはいけない。テクノロジーとアナログを融合した先に日本の未来がある。
水野コロナは、場所や時間だけでなく、そもそも働く目的や自分の未来を見つめ直すいいタイミング。ワーケーションを通じて、働き方や暮らし方のリセットを考えてほしい。