EVENT

Smart Work 経営 企業の挑戦
トップが主導する企業のテレワーク戦略

主催:日本経済新聞社
共催:厚生労働省
協賛:東京電力ホールディングス、TeamViewer ジャパン

今こそ柔軟な働き方実現

企業には生産性や創造性を高め、働き方改革につながるテレワークの活用推進が求められている。事業の継続を脅かす災害の発生や感染症の流行に備え、従業員の安全を確保するためにも、対応は急務だ。そこで日本経済新聞社は2 月7日、「日経スマートワークプロジェクト」の一環として第3 回「トップが主導する企業のテレワーク戦略」を東京・大手町の日経カンファレンスルームで開催した。厚生労働省の「テレワーク宣言応援事業」選定企業などが自社の取り組みを紹介。有識者が最新事情を解説し、導入・活用に向けたヒントを発信した。
※厚生労働省「テレワーク宣言応援事業」https://www.sengen7.com/

挨拶

利用促す仕組みづくりを
吉村 紀一郎 氏厚生労働省 雇用環境均等局
在宅労働課長
吉村 紀一郎 氏

厚生労働省は長時間労働を招かない良質なテレワークの普及を目指し、様々な取り組みを展開している。助成金制度や相談窓口の設置、企業の労務担当者・労働者向けのセミナーなどを実施。「テレワーク宣言応援事業」では、経営層の主導でテレワークを推進している企業の取り組みをホームページで紹介している。

テレワークを成功させるポイントの一つは、トップが現場の声に耳を傾け、利用しやすい仕組みをつくることだ。宣言企業の取り組みを参考にして、政府が設定する「テレワーク・デイズ」(7月20日~9月6日)に参加するなど、取り組みを推進してほしい。

基調講演

5G時代の働き方改革 テレワークが促すデジタルトランスフォーメーション
働き方の自由度を高める
関口 和一 氏MM総研 代表取締役所長
関口 和一 氏

日本は諸外国に比べ働き方の柔軟度が低い。1988年の改正労働基準法施行後、月間労働時間は減少してきたが、情報化の遅れにより企業の生産性は向上せず、イノベーション力や競争力の低下を招いた。ペーパーワークが多く、精神論による業務遂行や根回しによるコンセンサスづくりを重視するなど、日本企業特有の文化も効率化を阻害している。

こうした課題を突破する一つのツールがテレワークであり、新しいデジタルツール群だ。VPN(仮想私設網)やリモートアクセス、シンクライアント、クラウドサービスなどを利用した「DaaS(仮想デスクトップ)」により、時間や場所に縛られない働き方が可能になる。超高速大容量、超低遅延、多数同時接続という特性を持つ次世代通信規格「5G」が、こうした「デジタルワークプレイス」の実現を支える。

5G時代の企業は、テレワークをはじめとしたスマートワークを可能にし、従業員一人ひとりが生産性を高められる環境をつくる必要がある。組織もピラミッド型からネットワーク型に変革し、ナレッジやデータに基づいて会社が回る仕組みを構築しなければならない。それが潜在的人材の獲得や事業継続計画(BCP)の強化にもつながる。

デジタル(イノベーション力)、ディスラプション(市場開拓力)、ディフィニション(商品開発力)、ダイバーシティ(人材活用力)、デューデリジェンス(リスク対応力)という5つのDをどう育むかが、日本企業に課せられた課題だ。

講演

家チカで生まれる新しい価値~郊外型テレワークオフィスの可能性
通勤負担の軽減で成果向上
佐藤 和之 氏東京電力ホールディングス
ビジネスソリューション・カンパニー
ソリューション推進室事業推進グループ
マネージャー
佐藤 和之 氏

1都3県在住者の平均通勤時間は、往復で100分程度とされる。郊外から都心に通勤するだけで疲労困憊(こんぱい)。通勤ストレスが高い人ほど仕事の満足度は下がる傾向にあり、通勤時間を短縮してストレスを軽減することが、仕事の満足度や生産性を向上することにつながる。

通勤時間を短縮するには、郊外(家チカ)で働ける環境が必要だ。その選択肢には自宅、カフェ、自社拠点などがあるが、いずれも生産性やセキュリティー、拠点数などに課題が残る。そこで当社は、郊外型テレワークオフィス「SoloTime(ソロタイム)」の提供を始めた。

利用者からは「体が楽」などメリットを実感したという声が多い。作業効率が高まり、じっくり考える時間が取れたという声もあった。使用料が発生するため成果を出そうという意識も働くようだ。

通勤時間を短縮できるインパクトは大きい。「SoloTime」を使うことで、時短勤務者がフルタイムで働ける例もある。従業員は収入増になり、企業は多様な人材の力を最大限活用できる。人材の獲得やBCP強化にもつながる。

これまでは企業の都合に個人が合わせて働いていたが、これからは多様な個人のライフスタイルに企業が合わせる時代だ。従業員に働き方の選択肢を示さなければならない。当社はインフラ事業者としてテレワークの基盤を提供し、働く人の幸福度向上と、企業の持続的成長、企業価値の向上を支援していく。

手軽に実践できるソリューションで日本のテレワーク普及に貢献
遠隔での業務を容易に実現
小宮 崇博 氏チームビューワージャパン
ビジネス開発部 部長
小宮 崇博 氏

当社の「チームビューワー(TeamViewer)」は、ネットワークに接続されている端末を遠隔で操作するクラウドソリューションだ。自宅などの端末からオフィスのパソコンを操作し、その画面を手元の端末に転送・表示することが可能。簡単にセキュアなテレワーク環境をつくれる。同僚などと資料を共有したり、ビデオ会議を開いたりすることも可能だ。

活用シーンは幅広い。例えば離島の医療事務では、有資格者の確保が課題。そこで有資格者の手元に画面を転送し、作業してもらうことで、課題を解決している例がある。医療用の画像診断装置など、専門機器のメンテナンスにも活用できる。エンジニアを派遣するのではなく、リモートで対応すれば、出張費用の削減や働き方改革につながる。

不具合で工場の生産ラインが停止するなどした場合は、現場の従業員が持つスマートフォンやスマートグラスを活用。拡張現実(AR)で確認すべき場所や修理方法を本部の技術者が指示し、早期復旧をサポートすることが可能だ。

従来のデスクトップ仮想化(VDI)では、サーバーなどを用意する必要があった。「チームビューワー」はダウンロードして導入するだけで利用可能。既存のワークフローに組み込めるため、スモールスタートで現場を改善できる。

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、ビジネスを変革し、新たな価値の創造を目指すものだ。「チームビューワー」がそれを可能にする。

パネルディスカッション

利用しにくい空気を打破
児玉 崇 氏

SBテクノロジー 取締役 上席執行役員 兼
ソリューション統括 兼
Workstyle@New ワーキンググループ リーダ
児玉 崇 氏

複数の制度で働きやすく
野知 一洋氏

荏原精密 経営企画室 室長
野知 一洋氏

まずやってみるのが早道
中川 玲子 氏

社会保険労務士法人SaLac(サラック)
代表・特定社会保険労務士
中川 玲子 氏

トップのビジョン具現化
國井 美和 氏

住友電気工業 広報部 次長
國井 美和 氏

試験期間後に利用認める
井上 拓磨 氏

はたらクリエイト 代表取締役CEO
井上 拓磨 氏

働き方の魅力で人材獲得
金子 真也 氏

八尾トーヨー住器 代表取締役社長
金子 真也 氏

コーディネーター
田澤 由利氏

テレワークマネジメント 代表取締役
田澤 由利氏

トップがすすめるわが社のテレワーク活用戦略

田澤テレワーク導入のきっかけから聞きたい。

野知ある女性従業員が妊娠した際、十分に支援できなかった反省から、その従業員の第2子妊娠を契機に導入した。

中川2018年の西日本豪雨災害がきっかけだ。道路が寸断されて従業員が出社できなかった。優秀な人材を手放したくないことも導入を後押しした。

國井一人ひとりが実力を発揮し、生き生きと活躍できる環境をつくるというトップのビジョンをどう具現化するか考えていた。そこに女性従業員から要望があり、導入に至った。

児玉従業員の声を受けて実施した。当社はICT(情報通信技術)サービスを提供しており、自社の実践がそのまま顧客企業へのより良い提案につながる。

井上子育て中の従業員の働く時間をいかに確保するかが課題だった。子どもが病気などになれば出社できないこともある。だから、在宅でできる仕事は在宅でできるようにした。

金子事業を続けるには人材を確保しなければならない。そのためには働きやすい環境、安心して長く働ける環境を整える必要があると考えて導入した。中小企業の生き残り戦略だ。

田澤経営視点からテレワークにどんなメリットを感じているか。

児玉長時間労働の解消や生産性の向上に効果を感じている。

井上当社の事業は人材の稼働時間が利益に直結する。働く時間を確保すればスキルの習得も早まり、より事業に貢献してもらえる。子育て中の女性に限れば採用に困らないのも利点だ。

金子人材の採用と流出抑制に効果がある。効率的に仕事ができ、成長を実感できれば、働きがいにつながる。働きがいのある企業には人が集まり、長く勤めたくなる。採用難といわれる中、働き方でアピールできる利点は大きい。

田澤テレワーク推進時の課題と、その解決策について教えてほしい。

國井テレワークは「楽ができる」「さぼりだ」と誤解する人もいる。そのため、利用希望者にテストを実施し、しっかり働くための制度であることを意識付けしている。運用時には在宅勤務で何をするのか計画を提出して上司の承認を受け、終了後に報告することで成果を管理している。

井上テレワークの利用希望者に1~2週間の試験期間を設けている。普段と変わらないパフォーマンスを発揮できるか確認し、問題なければ利用を許可する。関係するスタッフの業務負担が増えないようにするために必要な仕組みだ。ウェブ会議システムを使って一緒に休憩を取るなど、コミュニケーションを絶やさないことがモチベーションの維持につながり、離職を防ぐことにもなる。

中川コミュニケーションやセキュリティーのツール選びに苦労した。様々なサービスを試して、改善を続けている。まずやってみて、出てきた課題をつぶしていくのが早道だ。

児玉制度ができても、何となく利用しにくいという心理的ハードルが存在する。推奨日を多く設定し利用させることで、意識を変えていく必要がある。

野知テレワークができない工場の従業員が不公平に感じないか心配したが、反発はなかった。普段から現場の相談に応じて様々な制度を導入してきた風土があるからだと思う。いま妊娠中の女性従業員は、時差出勤、時間有休、時短勤務、テレワークという4つの制度を使っている。複数の制度があることで、より働きやすい環境ができる。

金子人は習慣を変えることを嫌う。最初の一歩はトップダウンで踏み出し、効果を実感した従業員を巻き込んで推進した。テレワークは、すべての従業員のための仕組みだ。会社と自身の未来のために取り組む必要があると伝えている。

田澤今後のテレワーク戦略は。

野知働き方の選択肢を増やすことは、ダイバーシティの推進やエンゲージメントの向上につながる。働く場所に縛られなければ異業種との交流も活性化でき、新規事業の創出にもつなげられる。

中川労働条件通知書への記載方法や就業規則の見直し、人事評価の方法など、自社での実践を踏まえて、顧問先の労務管理の仕組みづくりを支援したい。

國井働き方が多様化する中、今後出てくる様々なニーズに合わせて、必要とする人が利用できる環境を整備していきたい。

井上社内での取り組みの成果を踏まえて、取引先にアドバイスできるようにしていきたい。生産性の向上と働き方改革を一体的に支援するサービスを提供できるのではないか。

児玉より社会に浸透させるため、各社合意形成した上で、会社同士の利用を推進していきたい。

金子取引先にもテレワークが広がれば、もっと柔軟な働き方ができる。災害などが懸念される際、自ら判断して在宅勤務にし、取引先とも自然にやり取りできれば、防災やBCPの観点からも望ましい。

パネルディスカッション
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