2018.08.08_抄 録

働き方改革と生産性・稼ぐ力の関係深く
~スマートワーク経営研究会・中間報告セミナー~

「日経Smart Workプロジェクト」では、第一線で活躍する学識経験者らが集まる「スマートワーク経営研究会」を設置し、プロジェクトの一環である企業調査の分析から得た知見を広く発信している。中間報告がまとまったのを機に8月8日、「生産性向上の未来図~ワークスタイル変革が拓く」と題したセミナーを東京都内で開催。働き方改革と生産性向上、収益確保との両立をどう実現していくのかについて、プロジェクトメンバーが報告するとともに、求められる施策について企業担当者を交え議論した。

健康経営、企業収益を押し上げ

研究報告では、慶應義塾大学大学院商学研究科教授の鶴光太郎氏、慶應義塾大学商学部教授の山本勲氏、東洋大学経済学部教授の滝澤美帆氏が登壇した。研究会の座長でもある鶴氏は602社を対象とした「第1回日経Smart Work経営調査」の結果を活用し、労働生産性と企業の取り組みとの関係について報告した。鶴氏によれば、調査の指標となった人材活用力、イノベーション力、市場開拓力の3つはいずれも相関関係が高く、深くかかわっている。「3つの力をあわせた総合力や3つの中の人材活用力は、労働生産性や総資産経常利益率(ROA)と相関関係にある」とも指摘した。

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「生産性の高い企業に絞るといくつかの特徴があった」と慶應義塾大学大学院商学研究科の鶴光太郎教授

回答企業を生産性の高い、低いと2つに分けてみると、高生産性企業では①正社員に女性の割合が高く、女性活用が進んでいる②副業兼業を柔軟に認めるなど多様で柔軟な働き方をしている――などの特徴がみられたと述べた。ただ、これらはいずれも「ある取り組みをした結果、生産性が高くなるといった因果関係まで特定できていないことには注意が必要」と付け加えた。

滝澤氏は企業の取り組みと生産性との相関関係を、機械学習を用いて解析した結果を発表した。調査で聞いた107の設問から生産性との相関の高い要因を抜き出してみると、社外取締役比率が高い、男性非正社員の育児休業取得経験者が多いといった項目が挙がったと指摘。「労働時間が短い企業ほど生産性が高いという結果も得られた」とした。

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東洋大学経済学部の滝澤美帆教授は機械学習を用いて企業の取り組みと生産性の相関関係を解析

これらの設問が生産性をどの程度説明できるのかという分析でも、すべての項目、あるいは人材活用力に関する設問については説明が可能だと分かったと話した。そのうえで「多様な働き方を許容している、イノベーション活動に積極的な企業は生産性と相関が見られる」とまとめ、「因果関係の解明は今後挑戦していく。そのためにも、継続的なアンケート調査への協力をお願いしたい」と添えた。

研究報告の最後に登壇した山本氏は働き方改革と企業の利益率という視点での研究成果を発表した。調査に基づく時系列のデータを用いて働き方改革の効果を検証したところ、「健康経営を実施した企業は2年後の利益率(企業業績)を高めるらしいと解釈できる」とした。また、労働時間を減らしてもROAに影響は与えない、つまり長時間労働の是正によって時間あたりの生産性や利益を上げられると強調した。

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慶應義塾大学商学部の山本勲教授は労働時間を減らしてもROAには影響を与えないと説明

情報技術を積極的に活用したり、人材を外部から登用するなど仕事の進め方を見直したりしている企業では、長時間労働の是正が業績向上につながりやすいとも指摘。「相乗的な取り組みを進めることが重要になってくる」とまとめた。

 

従業員基点の働き方改革を

続いて、デロイト トーマツ コンサルティング執行役員の小野隆氏が「Future of Work:グローバルサーベイから考えるこれからの働き方と企業変革」と題し、講演した。同社がまとめている「グローバル・ヒューマン・キャピタル・トレンド」ならびに「働き方改革の実態調査」というサーベイを基に現在の働き方改革の問題点をみると、日本企業の73%が改革に取り組む一方で、72%は従業員の満足を得られていないと解説。原因として小野氏は「会社目線の改革になっている点や、社員が会社に求めることと会社が職場に用意すべきと考えていることにズレが生じている点などがある」と指摘した。

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「エンプロイー・エクスペリエンスに着目し働き方を改善することが重要」とデロイト トーマツ コンサルティングの小野隆執行役員

小野氏は「個人の働き方、行動を変えることが非常に重要なポイントとなる。各自が腹落ちして動かないと働き方改革は進まない」とし、個人の力が増大する中で、経営としてどうこれを生かしていくかが最も考えるべきことだと強調。従業員基点の改革を進めることが大切だとした。

具体的な改革の手法として、論理・技術からのアプローチに加え、勤務先企業で得たあらゆる体験から従業員が形成した主観的評価「エンプロイー・エクスペリエンス」に着目し、改善することが欠かせないと力説。経営層は将来を見据え「自社が今後提供すべき価値は何かなど7つの視点で進むべき道を決めることが必要となる」と結んだ。

 

働き手のモチベーションを引き上げ

セミナーの締めくくりとして、「生産性向上とワークスタイル変革を実現するには」と題したパネルディスカッションを開いた。パネリストはコマツ取締役常務執行役員の浦野邦子氏、デンソー人事部長の加藤晋也氏に慶大の山本氏、東洋大の滝澤氏。慶大院の鶴氏がモデレーターを務めた。

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コマツの浦野邦子取締役常務執行役員は働き方改革でICTを積極的に取り入れていると強調した

浦野氏は労組と一体となり実労働時間の短縮、年休の完全取得などを進め、インターバル制度も始めたと自社の取り組みを紹介。「生産性を50%引き上げることを目指し働き方改革に情報通信技術(ICT)を積極的に取り入れている。推進に向け事業本部長が旗振り役を担っている」と説明した。

働き方改革推進に向け浦野氏は「企業が足並みをそろえて実施するための後押しを政府などにお願いしたいとともに、法律や制度も整えてほしい」と要望した。

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「生産性を高めて捻出した時間を自分のやりたいことに充ててほしい」とデンソーの加藤晋也人事部長

加藤氏は経営改革の5本柱のひとつとして働き方改革を取り上げていると強調。「生産性を高めて時間を捻出し、その時間を自分のやりたいことに充てて、新たな価値を創造し、これを本業の仕事にも反映する正の循環を実現するため、会社として応援している」と述べた。通常よりも1時間早く出勤し、1時間早く帰宅する「Morning Shift」を期間限定で実施するなど具体例を説明した。

働き方改革について「社員一人ひとりが自らの働き方を選ぶという意識が非常に大事で、これを変えていくための施策を進めている」と話した。

まとめとして浦野氏は「若い人には自分で自分の人生をデザインする気概を持ってほしい」とエールを送り、加藤氏は「働き手にとってモチベーションが高まる施策を進めていきたい」と力を込めた。

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山本教授、滝澤教授とも2社の取り組みに学ぶところが多かったと声をそろえた
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