人も仕事も多様性を追求、イノベーション創り出す丸紅へ
たびたび持ち上がった「不要論」を退け、日本経済をリードしてきた商社。だが、丸紅の國分文也社長は変革を今しないと、商社という業態・ビジネスモデルは消えてしまうと危機感を抱く。5年、10年後にも顧客、社会に最適な解決法を提供する存在であり続ける。そのために丸紅は、人も、仕事も多様性を追求。人材・業務を掛け合わせ、イノベーションを創り出す企業にかじを切り始めた。
たびたび持ち上がった「不要論」を退け、日本経済をリードしてきた商社。だが、丸紅の國分文也社長は変革を今しないと、商社という業態・ビジネスモデルは消えてしまうと危機感を抱く。5年、10年後にも顧客、社会に最適な解決法を提供する存在であり続ける。そのために丸紅は、人も、仕事も多様性を追求。人材・業務を掛け合わせ、イノベーションを創り出す企業にかじを切り始めた。
「商社の提供できる解決策にミスマッチが起こり、限界が出始めている」。最新のワークスタイルに関する情報を提供するat Will Work(東京・千代田)が2月15日に開催した「働き方を考えるカンファレンス2018」。「社会・企業・人、それぞれが取り組むべき事とは」とのテーマで大阪大学大学院の安田洋祐准教授と対談した國分社長は、冒頭でこう語気を強めた。
かつて「ラーメンからロケットまで」と呼ばれた商社。いくつもの商品、幅広いネットワークをもち、多様な事業を一つの企業体として展開する点を踏まえ、國分社長は「巨大なプラットフォーム」と位置づける。そのプラットフォームにきしみが出ているともいう。「社会の変化に迅速に対応してきたからこそ、100年以上の歴史を積み重ねてきた。会社にいるすべての人間が変わり、従来の枠を超えないと未来はない」
変わるための鍵。それは人、仕事両面での多様性と國分社長はみる。多様性を追求するために、いくつもの取り組みを準備している。
人の分野では、他社との交流や既存の考え方にとらわれない社内異動を進め、幅広い視野を持つ人材を育てていく。社外に転職した人材であっても、マーケットバリューが高い人材は再度雇用する柔軟さも時には用意。国籍、性別、年齢を問わず、異なる発想やバックグラウンドを持つ人材の取り込みにつなげる考えだ。
仕事の面では、事業部門ごとの縦割りが強い商社独特の文化を壊すことから始める。巨大なプラットフォームという機能をどう使えば、イノベーションが起こせるのか。会社の持つ資産、ネットワークを共有することで、部門の枠を超えた掛け合わせ、発想ができるようにする。この一環として社内の新規事業のアイデア募集に着手した。「非常に面白いアイデアもある。事業化できるのは1~2%だろうが、どんどん挑戦させる」(國分社長)。
「社内の働き方を改めることで、イノベーションにつながる余地は大きくなる。総合商社が変わり始めているのは、日本企業にとって心強い」。対談で安田准教授の応援を得た國分社長は、今後待ち受ける厳しさにも言及した。「社会の大変革は成功する機会を与えるとともに、リスクももたらす。チャンスをつかめないと生き残れない」。だからこそ、がんばってほしいとの願いを込めて。
新たな働き方、事業の創出に乗り出した國分社長は、多角的な事業を持つ強さを発揮するビジネスモデルをつくりあげると強調する。一問一答は次の通り。
--商社特有の部門別の縦割りをなくすことが必要とみています。
「商社は各事業の価値をあわせた価値より、会社全体の価値が低い『コングロマリット・ディスカウント』になっているといわれる。この状況に陥っているとされた米ゼネラル・エレクトリックは事業体ごとに上場させる戦略を採用したが、我々は違う。幅広い事業を抱えるプラットフォームとしての性格を生かし、ここに新しい発想や技術を加えることで、イノベーションを起こし、魅力を高めていく」
--各部門が競い合うことが、商社の強みでもあります。
「中核となる事業を強くするということは今までと同じだ。競争力のある商品、存在感が大きい地域では一段と磨きをかけ、価値を高める。そのうえで、会社全体をどう活用していくのか、社員がじっくり考えることが必要。掛け合わせによって社内にいわば化学反応を引き起こしたい」
--多忙な商社パーソンにさらに負荷をかけることになりませんか。
「資料づくりといったルーティーンの業務はAI、ロボティクスの活用や業務の見直しで減らす。ここで生まれた時間は会社全体の資産を深く知り、新たなビジネスモデルを発想することに充てる。そしてアイデアを吸い上げ、事業化する仕組みを築いていく」
「働き方も一律でなくなり、場所や時間、性別や国籍、年齢も多様化していくことになる。ただ、多様化を進めると、社内の共通言語をどうするかという問題はある」
--実現には社員の意識改革が欠かせません。
「変革が必要だとずいぶん言ってきたが、まだ道半ば。成功事例が2~3件出てくれば、違ってくる。働き方についても、若手社員から上がってきた提言が実現すれば、意識も変わってくる。今期、来期でどの程度具体化できるかが勝負どころとなる」