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人材育成へ投資1割増、働き方改革で原資

主要企業の2019年度の1社あたりの研修費が、16年度比1割増える見通しとなった。日本経済新聞社が18日、「働きやすさ」の視点でまとめた「スマートワーク経営調査」で分かった。19年4月の働き方改革関連法の施行に先行し、削減した人件費などを人の育成に注ぐ。働き方改革は、成長やイノベーション(革新)を追求する新たな段階に入った。

総合格付け上位44社

調査は、全国の上場企業3727社と、有力非上場企業を対象に実施し、663社から有効回答を得た。多様で柔軟な働き方の実現、新規事業などを生み出す体制、市場を開拓する力の3要素によって組織のパフォーマンスを最大化させる取り組みを「スマートワーク経営」と定義した。コーポレートガバナンス(企業統治)など経営基盤も加えて各社の総得点を算出し、格付けした。

総得点の偏差値70以上の最上位グループには、サントリーホールディングスやコマツ、ソフトバンク、ファーストリテイリングなど14社が入った。偏差値65以上70未満は30社が名を連ねた。

企業が経営の主要テーマと考えるのが、「人材」についてだ。経営課題を聞いたところ、「人材の育成」(16.1%)、「従業員の労働生産性向上」(12.2%)など人材や働き方に関する項目を多くの企業が選んだ。研修費は増加が続く。18年度の回答企業の平均額は約4億円で、16年度比8.8%増の見込み。19年度は16年度比で10.6%増となる見通しだ。

最上位グループになった日立製作所は18年度、人材への投資額を16年度比で14%増やしている。グループ全体で約300人の幹部候補を選抜し、事業に必要な技能を身につける研修や、具体的な課題に取り組む研修を設ける。19年4月にはグループ全体の人材育成を担う新会社も設立する。

働き方改革で削減した時間や残業代を人材投資に活用する例が多い。回答企業の総労働時間は17年度実績の平均(一般社員)で2004時間と、15年度から1%減少。有給休暇の取得率も61.3%と1ポイント上昇した。経営基盤で上位の日本電産は残業減で浮いた人件費を語学などの研修に充てる。働き方改革は無理や無駄の削減が一定の成果を上げ、それを原資に生産性や成長を追求する。

人材投資は増加している

経済産業省によると、日本の職場内訓練(OJT)以外の人材育成投資は国内総生産(GDP)比で米欧を大きく下回る。ただ社内外で能力を磨く取り組みは広がる。日本生命保険は残業を原則禁止とした毎週水曜日の業務後、社外講師を招き語学やデータサイエンス、フィンテックなど約100種の講座を開く。

より柔軟な働き方を模索する動きも広がる。社員の副業や兼業を「認めている」「認めた例がある」とした企業は46.6%に上った。副業・兼業をする社員の数も1社あたり8.1人と17年から1.6人増えた。人材活用力で上位のSCSKは19年から全社員を対象に副業・兼業を解禁する。在宅勤務の平均利用人数も18年は483.8人と、前年から倍増した。

総合ランキング一覧(偏差値65未満)はこちら [pdfファイル]

《評価の方法》

スマートワーク経営調査は「人材活用力」「イノベーション力」「市場開拓力」の3分野に、企業の持続的発展のために必要とされる「経営基盤」を加えた4分野で構成される。企業向けアンケート調査や消費者調査、公開データなどから19の評価指標を作成し、企業を評価した。

【アンケート調査の概要】

企業向け調査は2018年5月、全国の上場企業3727社および従業員100人以上の有力非上場企業を対象に実施した。有効回答は663社(うち上場企業634社)。なお、有力企業でもアンケートに回答を得られずランキング対象外となったり、回答項目の不足から得点が低く出たりするケースがある。

また一部指標においてはインターネットモニター(一般消費者2万523人、ビジネスパーソン2万431人)および日本経済新聞社の編集委員等(87人)の各社評価も使用した。

【その他の使用データ】

測定指標のうち、市場拡大の一部指標については、レコフM&Aデータベースを基に作成した。また、経営基盤の一部指標については、NEEDS(日本経済新聞社の総合経済データバンク)のコーポレート・ガバナンス関連データを基に作成した。

【4分野と測定指標】

4分野のスコアを測定する指標は以下の通り。

人材活用力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、ダイバーシティの推進、多様で柔軟な働き方の実現、人材への投資、ワークライフバランス、エンゲージメント、人材の確保・定着と流動性の8指標。

イノベーション力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、新事業・新技術への投資、イノベーション推進体制、社外との連携の5指標。

市場開拓力 方針・計画と責任体制、テクノロジーの導入・活用、ブランド力、市場浸透、市場拡大の5指標。

経営基盤 ガバナンス・社会貢献・情報開示を総合的に評価した1指標。

【総合評価のウエート付け】

各分野の評価を人材活用力(50%)、イノベーション力(20%)、市場開拓力(20%)、経営基盤(10%)の割合で合算し、総合評価を作成した。

【総合評価・分野別評価の表記について】

総合評価は、各社の得点を偏差値化して作成した。★5個が偏差値70以上、以下★4・5個が65以上70未満、★4個が60以上65未満、★3・5個が55以上60未満、★3個が50以上55未満を表している。

また、各社の分野別評価は、偏差値70以上がS++、以下偏差値5刻みでS+、S、A++、A+、A、B++、B+、Bと表記している。

評価に使用した各種指標の集計結果やスコアの詳細データは日経リサーチが提供する。詳細はHPを参照。

(日経リサーチ 編集企画部)

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