2019.11.25

【抄録】「第3回 日経スマートワーク経営調査」 調査結果解説セミナーを開催

日本経済新聞社グループでは、組織のパフォーマンスを最大化させるこれからの企業経営のあり方を「スマートワーク経営」と定義し、日経Smart Workプロジェクトとして様々な取り組みを展開してきた。活動の中核となる「スマートワーク経営調査」は3回目を迎え、700社を超す企業から回答が寄せられた。セミナーでは調査結果の概要を報告するとともに、評価ランキングの順位を大きく上げた2社の役員人事担当者が取り組み事例について講演した。さらに、イノベーションを生み出す取り組み課題についてパネルディスカッション形式で議論した。

先進的に取り組む企業は、課題解決フェーズへ

2019年の「スマートワーク経営調査」の結果については、日経リサーチコンテンツ事業本部編集企画部担当部長の堀江晶子氏が報告。「過去最高の708社が回答。評価を点数化して偏差値を計算し、星の数で示している。最高ランクの5つ星となった企業は、前回を大きく上回り23社となった」と説明した。

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堀江晶子氏

年間総実労働時間は、製造業と非製造業ともに着実に減少傾向にある。休暇の取得率も高まる傾向で、偏差値が高い企業は労働時間削減や休暇取得のための多様な取り組みを進めていることがわかった。「とりわけ上位企業では、個人の事情に合わせる柔軟な働き方を取り入れている」と指摘した。

女性活躍とダイバーシティーについては「女性管理職比率が高い企業は、育児との両立が進み、結果的に平均労働時間が減少、時間当たりの生産性が高くなっている。男性の育児休暇取得も増え、全体の4割程度の企業に広がっている。在宅勤務やテレワークについては、導入した企業からは具体的な課題が見え、それらの解決フェーズへと進めていることがわかった」と述べた。

生産性を高めるために、スマートデバイスやRPAの導入も多くなっているという。さらに、「AIや機械学習、データサイエンティストの育成に力を入れているとの回答が多かった。今後も増えていくだろう」と予想した。

製造業、非製造業の別で、また職種によっても何が必要なのかが異なる。「まずは全社として働き方改革の取り組みを進め、次に全社施策で取りこぼしがちな職種やメンバーにも恩恵を受けられるようにしていく。きめ細かい取り組みによって、本来の働き方改革が実現するのではないだろうか」と話した。

イノベーションを生み出すデジタル人材を育成-NTTデータ

続けて、評価がランクアップした2社による事例発表があった。NTTデータ人事本部人事統括部長の加藤貴也氏は「弊社は、設立以来30年連続で増収を達成し、常にイノベーションを実行してきた。2005年頃より、グローバル化を推進しており、現在53の国と地域で、グローバル企業のシステムインテグレーションを支援している。最新のテクノロジーが日々、生まれ、デジタル化が加速している。今後はよりデジタルとリアルの境目がなくなり、一体化が進むだろう」と語った。

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加藤貴也氏

同社では、そのためにイノベーションを生み出す企業風土の醸成と、技術のトレンドに応じた変化対応力を持つ強い社員の育成を進める。2019年度の新中期経営計画には、全社員のデジタル対応力強化を盛り込む。

専門性の高い人材を育成するカリキュラム「プロフェッショナルCDP」では、メンタリングや相互の自己研鑽を通じて社内でプロを育てる。「データサイエンティストやビジネスディベロッパと呼ぶ新規サービスに関わる人材の専門性を定義することで、育成は順調に進んでいる」(加藤氏)AI、IoT、クラウドなどの先進技術領域やコンサルティングに関しては、卓越した専門性を持つ人材を社外から迎える制度も整えた。

「2019年度からはセルフ・イノベーション・タイムを新設した。業務時間の一部を、グローバル、デジタルに関するスキルアップやデジタルを活用した働き方改革、他組織とのナレッジ共有等の協業に充てることができる。今年度は1人当たり40時間でスタートした」。

働き方改革の取り組みは、「2005年のワーク・スタイル・イノベーション宣言を契機に、いち早くテレワークや裁量労働に取り組んできた。テレワークについては、既に9割が活用し、東京2020開催期間に向けて加速中だ」。全社シンクライアントを導入し、どこでも変わらない環境で仕事ができる。このような取り組みが功を奏して、この5年間、全体で生産性が22%向上。社員一人当たり総労働時間では、2007年度に2066時間あった労働時間を1889時間まで削減したという。

創業以来の理念を継承し、顧客と従業員満足度を向上-村田製作所

発表事例の2社目は、日本を代表するものづくり企業、村田製作所。取締役上席執行役員の宮本隆二氏が登壇した。「私たちは京都で創業し、今年で75周年を迎えた総合電子部品メーカー。スマートフォン、EV自動車にも、われわれの部品が多く使われている。技術の進展が激しく、M&Aやアライアンスを国内外で多く行っており、売り上げの90%以上は海外」と説明した。

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宮本隆二氏

創業時から変わらない経営理念はスマートワーク経営にも通じるという。「Innovator in Electronics」とスローガンを掲げるとともに、顧客満足(CS)と従業員満足(ES)を高めることを重要な価値観としている。「変化するビジネス状況とこれらをどう調和させるかが課題」と宮本氏。

M&Aや中途入社により、背景とする文化や風土が異なる社員が共に働く。理念を共有し、同じビジョンに向けて仕事に取り組むことが重要だ。今年、開設した従業員向け施設「ムラタイノベーションミュージアム」は、同社の理念や歴史、ビジョン、グローバルな連携、社会との調和などを学べる場だという。

また、激しい技術の変化に対応できるよう、「自律的に、自主的に判断し、素早く行動することが重要だと考え、キャリア自律の支援も実施している」。全員参加による草の根型の取り組みも進める。職場ごとに管理職も巻き込み、職場環境の改善、働きやすさや生産性の向上を推進している。

人材育成では、人材開発センターを設立するなど力を入れるとともに、キャリア支援専門組織を設置し、仕事のキャリアだけでなく、家庭や個人的な観点からのキャリア形成についても考えられる仕組みを作っている。2020年10月には、横浜みなとみらいにイノベーションセンターを竣工予定だ。新たな関東の拠点としてイノベーションの創出および研修、人材育成にさらに力を入れる。

全社で意識を変え、多様な取り組みを同時に進める

セミナーの最後は、慶應義塾大学大学院商学研究科の鶴光太郎教授がモデレーターとして加わり、NTTデータの加藤氏、村田製作所の宮本氏とパネルディスカッションを行った。鶴氏は、「両社の講演を聴き、共通点があることがわかった。グローバル企業であることと、イノベーション力を重視していることだ。人材育成の取り組みを通じ、社内の何が、どう変わったか聞きたい」と質問した。

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鶴光太郎氏

加藤氏は「現在、社内の雰囲気が大きく変わってきた。昨年度、労働時間1890時間を達成したが、これは非常に高い目標だった、従来のやり方を変えないと、実現できない。そこで全社のシンクライアント化やテレワーク制度の見直しをした。同時に働く人の自律性を促したこと、トップからの発信などが組織文化を変えたのだろう」と述べた。

宮本氏は「2016年頃からダイバーシティ&インクルージョンを見直し、取り組みを進めた。一人一人が自律性・自主性をもって活躍できるようにすること、それぞれの事情や状況に応じていかに働きやすくするか、人事制度も見直した。こうした全般的な取り組みが効果につながったのではないか」と振り返った。

グローバル人材については、「海外売上比率が30%を超えた2016年頃から、人事として重点的に取り組んできた。若手、中堅には実務経験を増やすよう取り組み、幹部向け留学プログラムなども実施した」(加藤氏)。宮本氏は「グローバル・リーダーシップ・コンピテンシーと呼ぶ共通コンピテンシーを策定し、展開しているところだ」と語った。

最後に鶴氏が「イノベーションを大きな目標におくこと、多様性を重視することが重要であるとわかった。また、さまざまな施策を一体的に進めることで、相乗効果を上げている。従業員が自律的、自主的に生き生きと働けるように進めていくことが大事なのだろう」と述べ、パネルディスカッションを締めくくった。

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