EVENT

ワーケーション・サミット2019
~働く/休む 進化するカタチ~

主催:日本経済新聞社
後援:日本テレワーク協会、ワーケーション自治体協議会
特別協賛:日本能率協会マネジメントセンター
協賛:NTTコミュニケーションズ、三菱地所

仕事と休暇、無理なく両立

企業の働き方改革が進む中、新しい働き方として「ワーケーション」が注目されている。ワーケーションは仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせた造語だ。先ごろ開催した「ワーケーション・サミット2019」(主催=日本経済新聞社)には、ワーケーションを受け入れる自治体や支援サービスを提供する企業、有識者が登壇。事例を交えてワーケーションのメリットなどを紹介した。

基調講演

和歌山県が見据えるワーケーションの可能性
新たな知生む基盤を目指す
仁坂 吉伸 氏和歌山県知事
ワーケーション自治体協議会会
仁坂 吉伸 氏

ワーケーションは、情報通信技術(ICT)などを活用し、いつもと異なる場所で、いつも通りの仕事をしながら、いつもと違う体験をする新しい働き方である。

テレワークが仕事と子育ての両立など社会課題を解決するツールであるのに対し、ワーケーションは非日常的な活動を通じてイノベーションが生まれる機会を創出する価値創造のツールだ。創造的な仕事ができ、地域交流やCSR(企業の社会的責任)に取り組みながら社員のモチベーション向上を実現できる。真の働き方改革の一つの解である。

ワーケーションを受け入れる自治体は、関係人口の創出で地域での消費行動の増加による経済活性化や支援ビジネスの創出、地域の魅力発信などが期待できる。企業誘致や移住・定住の促進にもつながる。

こうしたことから、和歌山県はいち早くワーケーションに取り組み始めた。本県は首都圏から空路で容易にアクセスでき、多様なニーズに応えるワーケーション向けオフィスや宿泊施設が整備されている。ICT企業などが集積する地域もあり、顔認証によるキャッシュレスの実証など先端技術のテストベッドとしても注目されている。

熊野古道や高野山などの観光資源も豊富で、様々な体験型のアクティビティーを楽しめる「ほんまもん体験」も人気だ。本県はワーケーションにより多様な才能が集い、新たな知を創造していく、オープンイノベーションのプラットフォームを目指す。

企業講演

~ユニーク体験でイノベーション・センスを磨く~「企業と地域をつなぐラーニング・ワーケーション」
人材育成の有効な手段に
張 士洛 氏日本能率協会マネジメントセンター
代表取締役社長
張 士洛 氏

企業の持続的な成長には、創造的なイノベーション人材が欠かせない。その成長をいかにデザインするかが、これからの企業の経営課題だ。

そこで当社は、ワーケーションに学びを追加した「ラーニング・ワーケーション」を掲げ、和歌山県と同県の田辺市、白浜町と連携協定を締結した。首都圏企業の人材と紀南地域の起業家がコラボレーションして地域課題の解決に取り組むプログラムを実施。8月には「親子ワーケーション」に協賛。さらに当社グループの幹部を対象にワーケーション研修も実施した。

当社はこうしたラーニング・ワーケーションを、イノベーティブな人材の成長を支援するプログラム「here there」として2020年7月から提供する予定だ。これからの時代に求められる、新しい成長の機会を提供するメンバーシッププログラムとなる。

東京やその近郊でインスピレーションセミナーなどを開催するほか、地方でのワーケーションや特別体験プログラムなどを実施。日常(here)と他日常(there)を往来しながら、座学では得られない体験による学びと、バックグラウンドが異なる人たちとの交流を通じて、自分の頭で物事を深く考え、行動できる力を養う。正解のない世界で、より良い世界を実現するためのイノベーティブなセンスを磨く。

和歌山県に続き、新潟県妙高市と連携協定を締結した。今後、国内外の様々な場所で独自の体験プログラムを実施していく。

講演

企業にメリットをもたらすワーケーション 導入のための課題
福利厚生ではなく企業戦略
田澤 由利 氏テレワークマネジメント/
ワイズスタッフ 代表取締役
田澤 由利 氏

テレワークにより、仕事と休暇を両立するワーケーションが現実味を帯びてきた。適切なワーケーションを実現するには、テレワークの導入や柔軟な出張規定の整備、サテライトオフィスの設置、地元住民のサポートなど、企業・地域が準備すべきことは多い。

企業にとってワーケーションは、新たなビジネスの創造や社員の意識改革など多くの利点がある。広域的に地方とつながりを持つことは、災害などの不測の事態に備える観点からも有効だ。その意味で、ワーケーションは単なる福利厚生ではなく、これからの時代を生き抜くための企業戦略といえる。

ショートメッセージ

地域特性生かして環境整備
林 宏行 氏ワーケーション自治体協議会
長野県産業労働部長
林 宏行 氏

ワーケーションの全国的な普及を目指し、1都6県、59市町村、合計65自治体が参画して「ワーケーション自治体協議会(WAJ)」が発足した。それぞれの自治体が地域特性を生かして取り組みを推進していく。

長野県は大都市圏からのアクセスがよく、四季の変化に富み、国宝の文化財や温泉、スキー場など観光資源も多い。移住地としての人気も高いエリアだ。

現在「信州リゾートテレワーク」と銘打ち、県内7市町村をモデル地域に指定。ワーケーションに必要な施設の整備や体験イベントの実施を支援し、新しいアイデアや価値を生むための環境づくりを進めている。

採用面でも訴求ポイントに
大沢 彰 氏日本テレワーク協会 主席研究員
大沢 彰 氏

ワーケーションの肝の一つは交流だ。参加者、講師、地域コミュニティー、地元の自治体職員などと交流することで、新たな気付きと自律の機会が得られる。そのため、企業がワーケーション先を選ぶ際は、企業との交流に利点があることを理解し、受け入れてくれる自治体や地域コミュニティーを探すことが重要だ。

企業は、社員旅行や研修の代わりにワーケーションを取り入れるなど、始めやすいところから挑戦するとよい。テレワークに加えてワーケーションにも対応することは、他社との差別化ポイントになり、採用面でも訴求点として生かせるはず。

パネルディスカッション

教育や家族のあり方も検討
松田 恵示 氏

東京学芸大学教授・副学長
松田 恵示 氏

トップ主導で制度化を推進
小田 卓也 氏

日本航空 執行役員人財本部長
小田 卓也 氏

成果を重ねて普及を後押し
矢尾 雅義 氏

凸版印刷
ソーシャルイノベーションセンター 部長
矢尾 雅義 氏

ICTにより取り組み支援
福田 直亮 氏

NTT コミュニケーションズ 経営企画部
ビジネスイノベーション推進室 担当部長
福田 直亮 氏

事業継続の観点からも有効
田澤 由利 氏

テレワークマネジメント/
ワイズスタッフ 代表取締役
田澤 由利 氏

地域貢献・学び等多様な形
柏谷 泰隆 氏

三菱総合研究所 プラチナ社会センター長
柏谷 泰隆 氏

多様なワーケーションを経営戦略に

柏谷(コーディネーター)ワーケーションの取り組みを聞きたい。

小田ハワイでのワーケーション支援や、各組織の集中討議を地方で行う合宿型ワーケーション、同僚や家族と参加するワーケーション・モニター・ツアーなどを実施し、トップ主導で社内への浸透を図ってきた。事業継続計画(BCP)の観点から役員がワーケーションに参加したり、勤怠管理システムにワーケーション勤務を盛り込んだりするなど、社内での制度化を進めている。

矢尾大分県別府市でイノベーション創出型ワーケーションを実施した。大都市圏の企業人材と地域人材の交流により、地域課題を解決するイノベーションを創出できないか検証するのが目的だ。結果として参加者間の交流・ディスカッションは多くの価値を生み、業務連携や協業の可能性を視野に入れたつながりができた。

福田ワーケーション体験施設「ハナレ軽井沢」のトライアル提供を始めた。JR軽井沢駅から徒歩3分の場所に設けた貸し切りも可能なワークスペースで、20人程度収容できる。ビデオ通話が可能な壁掛け型サイネージを設置し、離れたオフィスとも容易に会話等ができる。宿泊、観光、地域貢献のハブを目指し、地元の事業者との連携も進めている。

松田公教育におけるオープンイノベーションの創出を目指す取り組みの中で、ワーケーションを推進する際に求められる学校教育の変革や家族のあり方などを研究している。ワーケーションにおけるバケーション(遊び)の本質は、非日常での他者との出会いによる自身の変化にある。他者の世界との出会いが自身の世界を広げ、学びや活力を生む。そうした観点でワークとバケーションの関係を考えることが重要だ。

柏谷企業がワーケーションを進める際の課題や留意点は何か。

田澤ワーケーションに「出張なのに遊んでいる」「休暇なのに仕事をさせられる」というイメージを持つ企業は少なくない。普及を促進するには、企業が導入しやすくなるように、ワークとバケーションの切り替えを設計する必要がある。

矢尾ワーケーションがどのような成果を生むのか、具体的な事例を重ねて裏付けていくことが大切だ。目に見える結果が出てくれば、企業の理解や導入は進む。

福田遠隔地で仕事をするため、企業にとってはコミュニケーションコストの増大やセキュリティー対策、普段と同じように仕事ができる環境をどう整備するかが課題になる。これらはテクノロジーで解決できる領域でもある。一方、ワーケーションの費用は誰が負担するのか、人事評価とどのように関連付けるかなど、社内の制度設計も重要だ。

小田最近は全国の自治体や海外の企業などからワーケーションの誘いを受ける機会が増えた。そうした情報を社内に周知すると、手を挙げる社員が出てくる。何が社員の心を動かすか分からないため、様々な機会があることを社員に伝える企業側の対応が必要になる。

松田何を目的としたワーケーションなのか、企業・地域間でミッションを共有するとプログラムの質を向上できる。地方が解決したい課題を集積する「課題銀行」を設置し、そこから企業が情報を引き出せるようにする仕組みがあってもいい。

柏谷今後の発展や拡大への期待について聞きたい。

矢尾地方には解決すべき課題が山積している。そこにビジネスのチャンス、アイデアの起点がある。こうした視点で考えれば、リゾート地に限らず、日本全国にワーケーションを広げることが可能だ。

田澤全国に働く人が分散していくことで、様々な社会課題の解決につながると期待している。何が起きてもいつも通り仕事ができる環境を用意しておくこと、いざというとき頼れる人や地域とのつながりを築いておくことは、事業の継続性という観点でも企業にとって利点がある。

福田人工知能(AI)人材やデータアナリストなど当社が必要とする人材は、給与面だけでなく、働き方の自由度なども就職先を選ぶ基準にしている。経営戦略を実現する人材を獲得する意味でも、ワーケーションの取り組みは重要と考える。ワーケーションの効果を生かせる事業領域を見極めて、社内で仕組み化することが重要だ。

小田ワーケーションにより社員の雰囲気が大きく変わった。多様な立場の人々と交流することで、新しいアイデアが生まれてくる。そのワクワクやドキドキが、社員の活力につながっている。こういう企業が増えれば、日本はもっと面白くなる。

松田ギャップイヤーなどを活用し、就職前の期間に学生向けのワーケーションを実施するのも意味がある。私も上高地などを訪れるとスマートフォンでの検索ワードが変わる。いつもの自分の枠を超えて、新しい価値を発見・発信できるのがワーケーションの一つの価値だ。

柏谷人材を奪い合うのではなく、ワーケーションによって都市と地方で人材を共有する視点も求められる。ワーケーションはワーク+バケーションだけではない。ワーク+イノベーション、ワーク+コントリビューション、ワーク+エデュケーションなど多面的な取り組みが可能だ。目的に応じて柔軟に設計し、挑戦してほしい。

パネルディスカッション
ページトップへ